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正義の味方(ショートショート)

 覚せい剤の取引現場を押さえた刑事たちは、相手のヤクザと銃撃戦になった。相手の方が人数が多くて分が悪い。あわてて応援を頼んだ。
「大急ぎで頼むぞ」
 刑事部長の袴田がいった。無数の銃弾があちこちから飛んでくる。まるで映画の一場面のようだ。違うのは当たったら死ぬということである。
 しばらくすると弾の充填タイムなのか急に相手の銃撃が止んだ。そこへ手を上げたヤクザどもが集団で投降してきた。
 袴田たちはいったい何が起こったのだろう?と疑問に思ったら、その後ろに銃を2丁もった白い覆面の男が立っていた。
「警察の諸君、ヤクザはこの通り引き渡すよ」
 そう覆面の男はいうと、バイクのカブで、颯爽とマントをたなびかせ去っていった。
「何だ、ありゃあ。なんとか仮面みたいじゃあないか」
 刑事の1人が言った。まさにその恰好、仕草、某TV局で昔放映されていた〇光仮面のようであった。
 
 一方、こちらは出家井病院。1人の老人が今にも死にそうで苦しんでいた。付き添いの娘が不安な表情で見つめる。老人は末期癌であった。病院の先生が首を横に振りつつ、「あとは本人の気力次第ですね」といった。
 弱十郎。84歳。寝たきりになってから半年余り。余命1年といわれてから、既に2年を生き延びてきたのだが、もはやお迎えがきたようである。
 ところが奇跡か神がかり、弱老人は何とか一命を取り留め小康状態になった。
 
 月〇仮面はマスコミの知るところとなり、大々的にスクープされた。
「誰だ、情報を流したのは」
 袴田がいった。
「捕まったヤクザの証言からばれたようですよ」
 部下が言った。
 そんなところへ、今度は夜中に宝石強盗が現れたが、前もって予知していたのか、月光〇面がそれを待ち伏せしていて、一網打尽にやっつけて、自ら警察に連絡して、引き渡したという事件があった。
 ますますマスコミは大々的に取り上げた。
「正義の味方、月光仮〇は誰でしょう」
 前もって宝石強盗が来るのを予知していたなんてありえない、拳銃を2丁も持っているなんて、正義の味方でも銃刀法違反ではないか、バイクがかっこ悪すぎる、なんで昔のヒーローを気取ってでてくるんだ、等々不思議は深まるばかりである。

 そんなある日、子供が川で溺れているところを、○○仮面が突然現れて、救ってくれた。だが月光○○も消耗が激しかったようで、その場に倒れてしまった。早速救急車がよばれ、警察にも一報が入った。マスコミにも情報が行き、病院の前は押すな押すなの大盛況であった。
 袴田が、月○○面と対面して、仮面の中の素顔を見て驚いた。昔新米だった頃に教わったことのある先輩刑事の弱十郎であった。
「先輩ではありませんか。お久しぶりです」
「袴田君、私はもう駄目だ。寿命だ。〇光仮〇も今日で終わりだよ」
 そういうと、スーッと弱十郎は消えていなくなってしまった。

 同時刻、ベッドの中で苦しんでいた弱十郎は息を引き取った。

 今まで活躍したのは弱十郎の生霊だったのである。だからヤクザの銃にも平気だったし、宝石強盗も予知できたのであった。その事実を知った袴田他刑事たちは不思議なこともあるものだ、と皆、頭をひねった。
 マスコミには何も教えないようにしたので、却って騒ぎ出した。救急車に担ぎこまれて以来、さっそうと現れなくなったのは、どうしてか、警察が銃刀法違反で逮捕したのではないか、とか、噂が噂を呼んだ。
 そんなおり、またもや大事件が起こった。子供を人質に犯人が家に立てこもったのである。袴田は最初、説得を試みたが、全く応じない。強行突破より子供の安否が最優先だ。そこへ、またしても現れたのが、月光仮面であった。犯人を後ろ手に捕まえて、袴田たちの前まで来て、差し出した。
 袴田はビックリした。死んだはずだったのではなかったのか。月光仮面はいった。
「生霊で出られるなら、幽霊になっても出られるってことに気づいてさ。だからこうして現れたってわけさ」

 

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