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宇宙船操縦不能(ショートショート)

 宇宙船がいうことをきかなくなった。どこが悪いのか全然わからない。わかるわけがない。俺は技術者ではなく、一般ユーザーなのだから。いざという時の無線もきかない。どこへいってしまうのだろうか。
 操縦桿をひねくり回したが、全然反応しない。蹴り上げてやったが、足が痛いだけである。だが不思議なことに宇宙に漂う宇宙塵や隕石類には当たらず、宇宙船は俺の行きたいところではなく、宇宙船の行きたいところへとひたすらに飛び続けた。
 これは故障なのではなく、何かが、宇宙船を誘導しているのではないか、ふとそんな気がした。宇宙人だろうか。どこかの国のスパイだろうか。俺の運命はどうなるというのか。
 そういえばレンタルの時間を忘れていた。もう返す時間ではないだろうか。ふと時計を見る。驚きだ。2時間もオーバーしている。延長料金を支払わねばなるまい。
 それよりもこの船の行き先である。延長料金なんかどうでもいいから、俺は早く帰りたいのだ。
 せっかく楽しみにしていた宇宙小旅行。緑子ちゃんを誘ったけど断られたので、結局一人で乗り込むことになった。これからどうなるのだろう。パパ、ママ、俺を助けて。
 もう一度無線を俺は使いチューニングをずらして、どこでもいいから通じるところを探した。
「〇▼◇。。。@$」
 ああ訳の分からない星と交信しちまったぞ。どうしよう。どうしようっていっても、どうせ通じないのだから、関係ないか。俺はすぐチューニングをかえ、地球に交信を試みた。できればあの宇宙船レンタル屋に。
 そういえばもともとその店にチューニングは合っていたはずだったのに、どうして、狂っちまったんだろう。俺が何か触ったかな。触ったかもしれないな。
 地球だ。地球が見えてきた。宇宙船はまっすぐ地球に向けて戻っているではないか。だがまだ安心はできない。どこへ誘導されているのかはっきりわかるまでは。どこかの国のスパイか何かに捕まって、パパやママや緑子ちゃんにも会えないことになってしまうかもしれない。
 
「時間内に戻ってこないと、こちらから遠隔操作で戻してもらうようになっております。それは口頭でも申したはずですが。それに無線でも伝えるつもりでしたが、無線のチューニングをずらしましたでしょう。それでお伝え出来なかったのです。いずれにせよ2時間以上の延滞金のお支払いをお願いします」
 結局レンタル屋に戻ってきた。そんなわけだったのだ。なんだ。よく聞いていなかった俺が悪かった。とりあえず、助かった。

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