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肝試し

  高校2年生の夏休み、クラスで海岸キャンプに行くことになった。多分周防大島だったと思う。隣のクラスも違う日に同じ場所でキャンプをすることになっていた。
 余興は肝試しである。くじで男女ペアを作り、暗い道を通って、神社かどこかのお札か何かを取ってくるようになっていたと思う。
 昼間テントの用意や食事の用意を皆でしながら、多分、あの娘と一緒だったらいいなとか、皆思っていたはずだった。僕も特別好きな娘はいなかったものの、なるべくなら可愛い娘で、何かあったら、キャーって抱きついてくるような娘だったらいいな、と空想していた。
 果たしてくじ引きは行われたが、番号だけなので、誰と一緒なのかはわからない。女性軍に向かって、誰だ誰だ、と聞いて回るのも下衆いし、まあその時になればわかることではある。
 そのうち肝試しが始まった。順番は終わりの方だった。しばらく待っていると、やっと出番が来た。相手は石仏のような娘だった。表情のない、可愛げのない、そんなパートナーだった。
「お化けなんか出てくるわけないじゃない。馬鹿らしい」
 とかいいながらズンズン歩いていく。こっちもお化けなんか出てくるとは全然思ってやしないけれど、クラスの連中が驚かしに出てくることは明白であった。
 神社に行ってお札を取る。お札はすぐわかった。驚かし役の奴らも今一つ迫力に欠けて、全然びっくりしなかった。そして2人は何事もなくゴール地点に着いた。その彼女とは肝試しの前も後も話したことはない。この短い時間だけの会話であった。ゆえにクラスメイトとはいいながら名前さえ憶えていない。その時も知らなかったかもしれない。
 これが切っ掛けでカップルができたとは聞いたことがないので、誰かが目論んで企画したとしたなら失敗だったろう。もっとも僕が知らないだけだったのかもしれないけど。
 後日、隣のクラスが同じ場所でキャンプした。その日の夕方、TVニュースで、その彼らが集団食中毒になったと放送された。井戸で冷やしたスイカが悪かったらしい。1人は入院したということだった。
 早速そのクラスの友人宅に連絡して詳しいことを聞こうと思った。入院したのはバスケ部のYだった。電話した相手はピンピンしていた。
「スイカやろ。いっぱい食ったけどな、俺」
 どんな内臓をしてるんだか。後日Yに会ったら、恥ずかしそうに話をしてくれた。
 くれぐれも井戸水にはご注意を。肝試しより怖い話だ。

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