見出し画像

電話対応

 会社に勤めていた頃、非通知で電話をしてくる客がいた。商品の問い合わせなのだが、実にねちっこい。「会話を録音している」「すぐに答えろ。待たせるな」「本部に連絡するぞ」等々。辛辣な口調で、こっちをいらだたせるようなことを立て続けに喋る。
 そのうち非通知の電話が掛かってきたら誰も出なくなった。それを客は当然不満に思ったのだろう、本部にクレームの電話を掛けた。店長が店の皆に電話に出るように諭した。この頃僕はもう店長を落とされて売場のリーダーになっていた。既にバセドウ病を発病し、うつ病でも苦しんでいたので、この手の客の相手をするのは、ものすごいストレスになった。それで店長に「僕は絶対に出ない」と宣言した。店長は僕の後輩に当たるので、それについて何も言わなかった。
 そのうちうつが酷くなり、出勤できなくなり、有給も消化して、休職した。仕事から離れれば、少しは良くなるかと思えば、そういう簡単な病気ではなかった。やがて退職した。
 会社を辞めて数年経って、用事があったので、店に電話した。すると代表のオペレータが電話対応して、用件を聞き、店に繋いでくれた。成程、当時から店は人が足りなくて、電話に出ることが難しくなっていたし、クレーム対応や非通知の客などの初期対応をする暇などないので、会社がそのように仕組みを変えたのだな、と思った。やるじゃあないか。見直した。
 会社も改革を進めて、日々成長しているのを感じた。従業員のストレスを減らすことにもなるだろう。これなら会社の存続も大丈夫だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?