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君を想うとき‐さよならを告ぐ前に‐

誰ひとり居ない。
振り向いたらいつもそこに誰も居ない。
さっきまで、昨日まで、先週まで隣に居たのに。
笑って過ごした日々は幻だったのか。

いつからだろう?
何を間違えた?何がダメだった?
気付いたらみんな居なくなっている。
なぜなんだろう?

そんなこと1人で考えても答えは出ない。
私がその人の嫌がる何かをしたのかも知れない。
知らず、その人の気に障ることをしたのかも。

わからないよね。自覚がないんだもの。
いや、思い当たることはたくさんある。
あれかな?これかな?それかも?
何がダメだったか訊いても彼は答えてはくれない。
「それは僕の問題だ。」そう言って突き放されたら
何も、出来なくなる。何も、言えなくなる。

「荷物置くのに、この椅子使って」
と、私が床に鞄を置くのが嫌がった。
「また椅子に掛けてる。」と、彼指定の
ハンガーに上着を掛けないのを嫌がった。
「洗い物をしなくていい。」と、言われても
パパッと洗っちゃうね、と余計なことを。

「今から向かうから25分後に」
いつも近くの駅に迎えに来てくれた。
ごはんを作って美味しいお酒で乾杯。
酔っても「まだ飲むなら付き合うよ」
「上で寝て。僕は下で寝るから」と
ベッドは私に、床で寝るあなた。

どれだけ誘っても頑なに。
手を出さない紳士なあなた。
酔っぱらって『一緒にお風呂に入ろう』
と、誘惑したのは私。

居心地よい空間。
それを壊したのは紛れもない私。
「子どもが出来ちゃうから」と
着けずにしても、出した後に
再挿入するのを躊躇ったあなた。

たくさん酷い言葉も貰ったよ?
「やった人と付き合うことはない」
「子どもが出来たらどうするの?」
産むと言う私に「こんな狭いところで暮らせないよ」
「認知はしないよ。」「認知だけでいいの?」
「一人で育てる人も今の時代いるよね」

一緒に行ったスーパーで騒ぐ子どもを見て
「うっせぇな」と呟くあなた。子どもが嫌いなのか
それとも子どもを持てなかった悔しさか。
何があなたの本音だったのか。

亡くなった奥さんとの間に
「双子だったみたい」と子どもが
出来ていたことも聴いた。昔々に
あんなに離婚したいと言っていた奥さんも
亡くなった今では彼の唯一の理解者に。
亡くなってから、こんなに愛される彼女は
ある意味『幸せ者』だな、と。

死者には勝てないよね。
そもそも勝ち負けじゃない。
私の考え方が間違っている。
それを見透かされたのかも。

いつだったかあなたは私にこう言った。
その当時は貴方に興味なく、酔った戯言だと
ちゃんとした言葉は確かに覚えていない。
ただ「海外に行くことになった。数年行く。
僕について来てくれるかな。ついて来てね」
「覚悟してて」と、そんな内容だった。

あの時はまだあなたも結婚していなくて。
友だちの一人。友だちというより、ただの
ふざけたスタンプを送りあう知り合い。
『私じゃなくて彼女にLINEしろよ💢』と
酔っぱらって絡んで来ては、面倒な奴。
鬱陶しいな。そんな印象だった。

出会いは、出会い系アプリ。
稼げる人の話も聞いてみたいけども
職種年齢関係なく、色んな人と会ってみよう。
今は教授になり年収も1,000万弱な彼も
他の大学でまだ准教授だった頃の話。

目がチカチカする柄物のジャケット。に、ジーパン、
と、でかめの靴。私の好みでないものばかり。
青い車のホイールに白を選択してカスタマイズ。
あー、この人ないな。色のセンスが合わない。
お話だけして、ランチだけして帰ろう。

行くからには、過ごすからには楽しもう。
そんな感じで1時間半~2時間おしゃべり。
ごちそうになったので御礼を言って解散。
その後も、何年も合わず、LINEだけ。
そうLINEだけの関係で6年。

6年の間、たくさん話をしたよね。
私の彼氏の話、出会い系で出会った
他の人の話。仕事の話。お酒の話。
奥さんの話。他の女ともだちの話。
今思えば、中身のない話ばかり。

私事、結婚しようと思った人に
立て続けに拒まれ、心を病んだ私に
出会ったときと何も変わらず接してくれ
心療内科医に処方された薬が合わず
『飛び降りたい衝動に駆られてる』と
言った私に「迎えに行くよ!」と。

そんな風に行動を起こしてくれた
あなたまでまさかいなくなるとは思わず。
別れも告げずに、去られるとは。
一体何だったんだろう?あの6年。
あなたも他の人と同じだろうか?

「いつか突いてやろうと思ってた」
「僕を侮って居ただろう?」って
恥ずかしそうに、私に言うあなた。
6年間虎視眈々と狙っていたのだろうか。
目的を果たせたから居なくなったの?

いつか会社を立ち上げる。
「そのとき手伝ってくれるよね?」
「約束していたよね、立ち上げたよ。手伝ってね」
「ずっと前から約束していたよね」と言う彼。
何を持って私を必要とするのか。
熱烈なオファーに根負けした私。

仕事先で会った時に、何気なしに
私の頭を「ポンポンッ」と叩いた貴方。
頭をポンポンされるのが嫌いな私。
何事か、と思いつつも。訊かなかった。
あれは何だったんだろう?

いくつもの過去のあなたが私を混乱させる。
惑わせる。どれが本当のあなたなのか。
どれも本当のあなたなんだろう。

結果、どんなあなたでもいい。
どんなあなたでも私は受け容れる。
だって私を救ってくれたから。
暗い闇、長いトンネルに光を射してくれた
あなたをどうして非難できよう。
する必要もない。

君が元気ならそれでいい。
私とあなた。縁がなかったんだ。
どんなに君を想っても、もう
あの時の君はここにはいない。
幸せで居てくれたらそれでいい。
ありがとう。さようなら。

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