宇宙船と少女
目が覚めたらそこは、見慣れない空間だった。
私の部屋の生活感など微塵もない、機械的な、しかし妙に清潔感のある小さな――飛行機の機内のようだった。
ただ、客席が並んでいるわけではない。壁一面に見たことも無い電子機器が張り巡らされていた。
何が起こってるっていうんだ?
把握出来ない事態への混乱を打開しようと、私は起き上がろうとした。
「待ってよ」
背後から声がした。透き通った星屑みたいだと思って、振り向いた。
「まだ万全の身体じゃないから、横になって」
ゴーグルを額の上にかけ、顎までのラインの白髪に、まるで軍隊のような服を着崩した――少年?青年?
私が身動きひとつ出来ずにいるとその子は笑った。
「そんなに怖がらないでいいよ」
だって、君はだれ?ここはどこ?なんで私ここにいるの?君は私をどうするつもりなの?
矢継ぎ早に質問責めをしてしまった。
その子は少しだけ、遠くに思いを巡らせたような表情になった。
そして外を見遣った。
「一言でいうと、地球は滅亡してしまった。ここは宇宙だ」
「僕達は地上の原子。地球の破壊とともに生まれたけど大半は生存に適応できずに死んだ」
「君は世界で一人だけ死なずに済んだ。僕は君を助けると、生まれる前から決まっていたから」
なーんて、キザだよねぇ。と彼は笑う
泣きそうになった。話は読めないけど、この乗り物の外を見ればそれは嘘ではないのだと思うしかなかった。
真っ暗闇の宇宙らしきものが広がっていた。そうであるなら、これは宇宙船だろう。
私は状況を理解するのに必死だというのに、少年は悠々とライカを取り出して火をつけていた。
予兆はあった。世界滅亡が近いだなんて小説の中の物語だけだと思ってた。
でも、それは毎日のように大々的にニュースで取り上げられていた。
――地球の30倍の巨大隕石が衝突するとみられています。いつ衝突が起きてもおかしくありません。………
私の脳内は100%絶望であるべき状況だろうに、安堵感がふつふつと湧いてきた。
地球は終わったんだ。もうあの場所で生きなくていいんだ。だってずっと、あの世界で生きる生を、終わらせたかったから。
地球コミュニティに適応出来なかった私は、通常この事態において人が陥る精神になれなかった。つまり私は、みたこともないこの場所に抑えきれぬ高揚を覚えていた。
「ねぇ、」
「なんだい」
「君、名前は、」
少年は、今まで地上の幾億の人間でも見せてこなかったような微笑みで答える。
「エルダ」
あぁ、ようやく出会ったんだね。
と思った私は馬鹿だろうか。
でも、探していた。
小さな頃からずっと、孤独と戦う私が作る架空の世界があった。二人きりの、寂しくて美しい世界だった。
私が呼び続けていた大切な君の名前、
エルダ、だったから。
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