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自衛官病院で見る虫刺され:演習後に注意

暖かくなってくると増えてくるね、虫が。
ちょうちょとかカブトムシみたいな虫が増えるならいいけど、嫌な虫も増えてくる。
蚊とかアブとかね。
病院で外来をしていると虫刺されで受診する人は結構いる。
そして自衛隊病院ではその頻度は結構高い。
加えてあまり民間病院では見ない虫刺されもあったりする。

今回は自衛隊で注意すべき虫刺され(虫刺症)を説明していくよ。


虫刺症って何?

虫刺症とは蚊とかアブとかの虫に噛まれて起こる病気全般だ。
ただ物理的に虫に刺されるだけなら大したことはないが、虫が媒介する病気もあって稀に重症になることもある。

普通の生活をしていたらほとんど恐れる必要はない。
せいぜい蚊に刺されて痒くなるくらいだし、その程度も軽い。
ただ自衛官、特に陸上自衛官は野外で演習をするので虫刺されの被害が尋常じゃないんだ。
あらゆるところが蚊に刺され、毛虫で手が腫れたり、寝てる時にムカデに噛まれたりする。
陸上自衛官は自らが自然となることで、虫と友達になれる職業なんだ。

陸上自衛隊久留米駐屯地のHPより引用

こんな草むらで何日もいたら虫に噛まれるに決まってるよね。
陸上自衛官は虫のおやつみたいなもん。

どんな虫に刺されるの?

ではどんな虫に刺されるのだろうか?
その虫と症状の特徴について説明していこう。

1)蚊(小さな大量殺人鬼)

まずなんと言っても蚊だろう。
これは自衛官じゃなくても刺されたことがあるはずだ。
症状はなんと言っても痒み。
痒みと耳元の羽音で寝にくくなったことは皆も経験があるだろう。
「なんだ、痒みだけか。大したことないじゃん」
そう思う人がいるだろう。だが痒み以外に症状をもたらすことがある。
怖いのは二次感染と媒介疾患だ。

二次感染は痒みで掻きむしった後に出来た掻き傷に細菌が感染することで起こる。
掻き傷に細菌が感染すると傷口は赤く腫れ、熱を持ち、膿を出すようになる。この段階で適切な処理をしないと感染部位は広がっていく。
適切な処置とは清潔を保ち、安静と抗生剤治療を行うことだ。

だが演習中の陸上自衛官にこの適切な処置ができるとは限らない。
彼らは演習中風呂に入れず熱く蒸れたブーツで走り回る、下手したら同じ靴下で。
この高温多湿で不潔な状況は細菌にとって天国だ。
さらに放置すると細菌感染が広がり、蜂窩織炎という状態になることがある。
この場合脚がパンパンに腫れ痛みでまともに歩けなくなるほどになる。
こうなると抗生剤治療に加えて入院が必要になることすらあるんだ。

次に蚊は血を吸うだけでなく病気を媒介する。
これが厄介で世界中で蚊が媒介する病気により多くの人が今現在でも亡くなっている。
特に有名なのがマラリアだろう。
ただこのマラリアは日本では既に根絶されている。
ただ海外では依然猛威を奮っており、海外派遣の際は注意が必要だ。
マラリアに関しては後で補足する。

またマラリアに関する小話は別にしているので、よかったら読んでってね。

マラリアで苦しむ平清盛(国立国会図書館のHPより引用)

日本で問題となりうる蚊の媒介疾患はデング熱だろう。
これはデングウイルスが蚊によって運ばれ、人に感染することで起こる病気だ。
台湾などの熱帯地域に多い病気で国内感染はほとんどなかった。
しかし地球温暖化の影響によると思われるが2014年から国内での発生例が報告されている。参照
その数は多くないし、都内での報告例が多いので過剰に心配すべきではないが、演習後の陸上自衛官が受診した場合は鑑別疾患の片隅に置いておくべきだろう。
むしろ海外渡航歴がある海上自衛官の方がデング熱にかかる可能性は高いかもしれない。

デング熱の症状は多岐にわたる。
発熱、頭痛、皮疹、筋肉痛などでインフルエンザなどと間違われやすい症状だ。
重症化するとデング出血熱と言われ激しい出血傾向が現れ、時に生命の危機となることがある。
治療は対症療法しかないので、蚊に刺されないようにすることが最も重要だ。
蚊取り線香と虫除けスプレーは絶やさず使ったほうがいいね。
(海外の蚊は強いので、現地向けの強力なのを買った方がいい)

2)ハチ(アナフィラキシーに注意)

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