見出し画像

第三話 ぼうぼう庭さんこんにちは

 

前回までのあらすじ


 夏の盛りに剪定をお願いした植木屋さんが大変酷い仕事をして、庭の木や草が丸刈りにされてしまった。岩肌と土、刈り取られた切り株や草ばかりになってしまった庭を前に呆然とするが、怒りを落ち着けると、この庭への別の気持ちが芽生えてきたのだった。

 

第三話『ぼうぼう庭さんこんにちは』



草とひっくり返された鉢


 
 誰が見ても酷い仕様にされてしまった庭。花が好きでもない庭師による丸刈り作戦から庭をどうにかしなければいけない。そう思ってはいたもののしばらく庭を訪れることができず、やっと次に行けたのは暑さも落ち着いた十月中旬のことだった。
 駐車場に車を停め、門を開けて庭へ入った。すると、放置された庭はもはや庭とはいえず、草や蔦が生い茂り空き地のようになっていた。時々庭の様子を見にきていた叔母も丸刈りにされたショックから、この数ヶ月は全く庭に手をつけていない様だった。塀に沿って土だけになった鉢や空の容器が積み重なり、見窄らしさを強調していた。再び怒りが込み上げてきたが、ぼうぼうになった草を踏みながら庭を回った。


アボカドの新芽



 すると、奥の方の足元にいつか見た葉が覗いた。あれは、アボカドではないか。雑に生えている草を選り分けて進み、近くで確認する。間違いない、二本あったアボカドのうちの一本から新芽が出ている。根元で切り取られ、死んだと思っていたが、彼は生きていた。痛々しい切り株の脇から柔らかな新芽を二本垂直に、元気に天へと伸ばしている。その葉は若葉色にクワガタの羽根のような茶色を混ぜていきいきとしている。そうだ憤慨している場合ではない。この庭をもう一度再生しよう。まずは雑草抜きからだ。ゴミと物と蜘蛛の死骸と土埃で溢れた小屋から軍手と鎌を探し出し、秋空の下に広がる草を見やりながら鼻息荒く仁王立ちする。それはぼうぼう日誌の最初の一筆だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?