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短編小説『失われたタンゴが聞こえてきたので』

短編小説『失われたタンゴが聞こえてきたので』

『失われたタンゴが聞こえてきたので』

 失われたタンゴが聞こえてきたので、私は通りを右に曲がった。
 軒先でレコードを七輪で炙っている女性がいた。レコードがはぜる音が失われたタンゴのメロディを奏でていた。
 女性は団扇を扇ぐと、七輪の火は強くなった。
 レコードはますます焼かれ、失われたタンゴは失った音色を取り戻していった。
「すいません。なんのレコードを焼いているのですか?」と私は言った。

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