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「ジャンル」のシームレス化が進むワケ

いま、観葉植物や、熱帯植物、サボテンなど、古くから棲み分けされていた植物趣における「ジャンル」の壁が取り払われようとしている。
植物を育てること自体がすべて、面白いことという認識が広まりつつあるのだ。
いわば「サボテンが趣味」ではなく、「植物を育てることが趣味」というカタチがスタンダードになろうとしている。

その理由はただひとつ。
情報伝達技術が発達したから。

それによりあらゆる植物の存在が知れ渡り、いまや国内には続々と新品種が輸入されている。
また、一部の趣味家のみが古くから栽培してきたものなども手軽に入手でき、比例するように栽培情報も簡単に共有することができつつある。

植物の情報を得るきっかけも多様化し、着目するポイントも旧来より格段に増えた。
SNSで美しい花の画像を見たから育ててみたい。
栽培環境の同じ、砂漠環境に自生する植物を集めたい。
幹や根の肥大する植物を探している。
…など、思いもよらぬ視点から新たな「価値観」も生まれる。

結果として、「ジャンル」という箱の中に納まっていた植物の情報が溢れ出し、そして趣味家は、植物の栽培環境を制御することだけを区別するようになる。

ベランダにはランとチランジアが隣り合い、その横にはサボテンとコーデックスが同居。
居室にはLEDに照らされた熱帯植物が水槽で生育する。
これはもはや、「植物が趣味」と言うほかは説明できないだろう。

しかし、それによる弊害が起きている。
作り手・売り手にまでそのシームレスになった意味や、現状を捉えきれていないのだ。

「シームレス化」とは裏を返せば、多品種のラインナップを余儀なくされることでもある。
ジャンルがなく、着目される視点も多様化しているのだから、商品の選択肢が少ないことは致命的だ。

生産者側からみれば、品種を維持していくことこそが作り手の腕の見せ所であった。
どこの誰よりも質の高いものを作出し、昨年より今年、今年より来年はもっと品質の良いものを作ろう…。
そんな精神を持つ者が「良い農家」「篤農家」とされ、いつでも良い品を出荷できる生産者にこそ評価が高まった。
しかし、これが繰り返されていたがゆえに、まったく違う別の植物と対峙することにはネガティブにならざるを得ない。

品種を維持していくことこそが100点であるとすれば、いま、求められるのは100点以上の商品。
100点以上の点数の内訳は「付加価値」というものであり、消費者からの要求は青天井だ。
100点以上の結果に終わったとしても、来年はまた別の教科で100点以上を得るべく試験を挑まねばならないのが現代の園芸マーケットである。

だとするのならまず「100点が満点であること」を消費者に伝えることが先決だろう。
以前ブログに、

そうした中で第1次産業、ひいては花卉園芸業界はどうするべきか。それは消費者に「その商品とは何であるかを伝達する」ことが大切で、そのうえで自ずと商品に必要な付加価値が見いだせるのだと考えています。

と書いた。

植物を育てる大変さや、面白味、他とは違うセールスポイントなどを事細かに伝えることからはじめるべきだ。
むしろそれこそが「付加価値」となるし、「付加価値」を見つけ出す糸口になるかもしれない。

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