大谷翔平選手の怪我直前の値について

前回の「大谷翔平 2020年 8月2日 HOU戦の投球データについて」をご覧頂いた方、誠にありがとうございます。
前回の最後に「面白い傾向が見られたので、別の記事に詳しく書きます。」と言っておりましたが、結論から申し上げますと、最初に想定していた程の興味深い傾向は見られませんでした。
ですが、多少の傾向が見られたので、共有させていただきます。あまり期待せずにご覧ください……


●興味深いと感じた経緯
まず、なぜ私が大谷選手の8月2日の投球データを見た際に「興味深い傾向がある」と感じたのかを、簡単に説明させていただければと思います。
Twitter(@haruya_ball)の方では先に載せておりますが、下記の4シームとリリースの高さの関係の図を見た時に怪我の兆候が出ているのではないかと思い、興味深い傾向と捉えました。

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図1.8月2日の4シームの球速とリリース高の関係

図1の前半では、球速とリリースの高さにそれ程関係は見られませんが、後半(特に4シームの11球目ごろから)は、反比例の関係を示している事がお分かりになるかと思います。
ここで興味深いのは、前半では見られなかったが後半は反比例の関係にある事と、その反比例の関係が始まったのが、球速が急激に減少するよりも前であると言う点です。

しかし、2018年のLAAでの投球データを同様に確認したところ、基本的に反比例の関係が見られるが、時折関係が弱くなる時もあるという図1と殆ど同じ動きをしていました。なので、図1の前半は時折ある反比例が弱い場合(なぜ反比例の関係が時折弱くなるのかは、今回は解明できなかった)で、後半の11球目ごろから球速とリリースの高さの関係が普段通りに戻ったと考えられるため、11球目ごろから怪我の兆候が表れていたとは考えにくい結果となりました。


その他の球速との関係
最初に期待した球速とリリースの高さの関係は、あまり興味深い傾向は見られなかったが、その他に普段とは違う球速との関係が見られる値が無いかを調査しました。その中で、球速とリリースサイドに多少の関係が見られたので共有させていただきます。

まず下記の図をご覧ください。

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図2. 前回登板(2020年8月2日、怪我直前)の4シームの球速とリリースサイドの関係

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図3. 2018年のLAAでの4シームの球速とリリースサイドの関係

球速とリリースサイドの関係を散布図にし、決定係数を求めました。図2.3.はそれぞれ「前回登板(2020年8月2日、怪我直前)の4シームの球速とリリースサイドの関係」と、「2018年のLAAでの4シームの球速とリリースサイドの関係」です。

図と図に表している決定係数を見て頂ければお分かりかと思いますが、怪我の直前である前回登板の方が、2018年よりも球速とリリースサイドの負の相関が強くなっています。
ここに着目して、速球派のオーバースロー・スリークォーターで、ここ数年でトミー・ジョン手術を受けた3選手【BOS:ネイサン・イバルディ投手、STL:ジョーダン・ヒックス投手、NYY:ルイス・セベリーノ投手】と大谷選手の計4選手の、怪我直前の登板と、怪我の前年の速球系の球速とリリースサイドの決定係数を下記の表にまとめました。
(*大谷選手のみトミー・ジョン手術直前ではなく肘の怪我直前の値。その他の3選手はトミー・ジョン手術直前の値。4選手は全て怪我直前の登板がホームだったため、怪我前年の値もホーム球場での値に絞って算出)

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表1.怪我直前と怪我前年の球速とリリースサイドの決定係数の一覧

表1.にまとめと投手は普段の投球時よりも、肘の怪我直前の方が速球系とリリースサイドの関係が強まっていました。
投手本人が肘に痛みなどの違和感を覚えた時点で降板などの措置が取られるはずなので、これから推測するに、投手の中には本人が気付かない程度の違和感や予兆があると、本能的にリリースサイドを変えてしまう選手が存在すると考えられる。
もちろんこの傾向が全ての選手に当てはまる訳ではなく、球速とリリースサイドの関係に変化が見られていないが、その後トミー・ジョン手術に踏み切った選手も多く存在する。
しかし、一部の選手だとしても肘の怪我の直前に球速とリリースサイドの関係が強まる事実がある以上、今後その関係に変化が見られた場合は注意が必要と言えると考えます。


結論としては、球速とリリースサイドの関係が強まった場合は、必ず注意が必要と提言させて頂きます。

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