王力雄『セレモニー』読んだ
あまり評判の良くなかったCOCOAの運用終了のお知らせがあった。
アプリの質については素人なのでよくわからないが、我が国は曲がりなりにも自由な国家なのだから、監視がスムーズに行くとは思えなかった。
そんなことを思ったのは、最近たまたま王力雄の『セレモニー』を読んだからである。
著者は中国の反体制派として有名な作家である。
テーマはパンデミックとテクノロジーによる監視だと聞し、すごくタイムリーじゃないかと思って読み始めたのだが、パンデミックあんまり関係なかった。
感染症は権謀術数の一部に過ぎないのだが、権力闘争の過程がめちゃくちゃ面白くて一気に読んでしまった。
主人公の李博は冴えない技術者で、人民の靴に仕込まれたセキュリティ識別子で監視するシステムを管理している。靴を履かない人はほぼいないから強力な監視システムだ。
その妻伊好は北京市防疫センターの幹部である。ベルリン大学で学位をとった才媛であり、李博は彼女に気後れしている(つまりセックスレス)。
それで李博が監視するシステムは、IoTならぬIoS(Internet of Shoes)なのである。さらに「性交靴間距離」とかいうパワーワードが登場するに至って大草原不可避。
つまり、靴に仕込まれた識別子は、片方ずつに、方向までわかる。だから不自然な距離感、不自然なつま先の向きだとけつあな確定してしまうのだ。
これら物語の設定を総合すると、当然にもNTR要素があるわけで、そうした嗜好をお持ちの方はおおいに楽しめるであろう。
NTRを経て、パンデミックというかインフォデミックとなり、これぞ中南海といった感じの権力闘争に突入していく。まあ私は中国共産党のことはよくしらないんだけど、王力雄とかいう強そうな名前の作家だからだいたいあってるんだろう。
ここからがこの小説の面白いところ。下手に動くとドツボにはまるが、止まっていたら先を行かれる、という痺れる権力闘争だ。出し抜いて権力を手に入れるためには、まず権力を手に入れなくてはならない。
そして権力とは、軍隊、警察、技術者などの暴力を独占することだと痛感する。俺は党の幹部だとふんぞり返っているような人物は本作には登場しない。誰もが、自分のために動いてくれるのは誰かと冷徹に計算し続ける。
読み終えて、習近平さんはこんな大変な戦いを勝ち残ってきたんだなあという尊敬の念が残った。
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