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今井邦彦『ファンダメンタル音声学』はイントネーションの解説が詳しい


音声学の本は3冊めに突入。最初の2冊はこちらになります。



同じような本を何冊も読むことについては異論もあるだろう。一冊をやりこむほうがいいことも多々あるだろう。しかし音声学は数冊用いて学ぶほうが良いように思う。なんせ知らない用語がたくさんでてくるので。。。もちろん最終的には一冊に落ち着くこともおおいにありうるのだが。

というわけで、3冊目であることの利点が伝わるように、またこの本に特徴的なこともあわせて紹介していきたいと思う。

まず第1章は母音の解説から。日本語と対比しつつ、英語の母音を解説するものであるが、初っ端からまあまあfoundamentalである。イとエは有声子音が後続するとやや長くなって、イーやエイとの区別が困難になるとか。まあいちいち気にしなくても実用的には問題ないんだろうけど、音声学を学ぶとはそこにこだわるということなのであろう。根気よく進めるか、止めてしまうかどちらかである。
例をあげると、bitとbid、betとbedであれば、bidやbedはイやエがやや長めになる。beadのイーはほぼ日本語と同じなので、イとエの中間のようなbidとは区別できるわけである。
こういったことは音声学では定番の話題なので何冊も読んでいると何度も出てくる。そうするとやるしかないかという諦めも湧いてくるというものだ。

2章は子音。ここでも調音器官による子音の分類といういつもの話題だ。日本語にはあるが英語にはない子音、あるいはその逆のことを中心に解説している。本書の素晴らしいことは、著者自身がお手本とダメな発音を実演していることである。なのでわかりやすい。自分の発音も録音しながら練習することを推奨しているが、自分のダメさを実感することになるので萎えるんだけど、それでも録音はしたほうがいい。いや正直に言うと、著者の発音はちょっと日本語くさいなあって初め思ったんだけど、自分の声を録音して聞いてみると比べ物にならないくらい下手くそたったのである。
同じ日本語のカ行、ハ行、ナ行の中でも全て同じ発音ではないし、それぞれ発音記号も違うとかいうのも定番の話題らしい。3冊めともなるとそういうことがわかってくる。こういう異音(母語話者は同じ発音にグルーピングしている異なる発音)は興味深いし、自分の上気道がどのように動いているかにすごく意識的というかマインドフルになるので学ぶのは楽しい。

3章はアクセント。複合語はどこにアクセントが来るかという話が特に面白かった。まあ例外が多すぎて結局は辞書を見て覚えるしかないんだけどね。

4章は脱落、リエゾンなどの単音に起こる変化。これらは音声学を知らなくてもスピーキングやリスニングの練習をするさいに強調されることなのでわりとありふれた話題と思われる。といっても知らないことがあってはいけないので、さらっとでもいいから読んだほうがいい。

第5章はイントネーションで、本書の一番おもしろいところ。イントネーションはいま手元にある4冊(もう1冊は英語音声学入門、いずれ紹介する)のなかで一番くわしい。英語はイントネーションで意味合いがすごく変るといわれるが、そのことをしつこく解説している。今まであんまり深く考えずに英語しゃべってたけど、恐ろしいことだなあと思ったのだ。
高上昇調、低上昇調、高下降調、低下降調、高平板調、低平板調、上昇下降調、下降上昇調の8つにイントネーションを分類して、それぞれに例文とお手本の録音をつけて解説している。要点は、上昇調は判断の保留、下降調は判断の保留の不在だ。ここだけでも本書は読む価値がある。

第6章はオマケなので割愛。

まとめると、イントネーションに重点をおいた音声学の本であり、著者自身がふきこんだCDがなかなか良い感じといったところだ。音声学の初歩についてもほぼ網羅されており、初心者が選ぶ一冊になりうると思う。最後に音声学とは?みたいなことが序文にあったので引用しておこう。

そして重要なことは「この本を利用して自分の音声器官を自在に動かす能力を身につければ、GAであろうとアメリカ南部方言であろうと、あるいは必要とあればコクニーであろうと、その発音ができるようになる」という事実である。

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