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左派加速主義の書、ニック・スルニチェック&アレックス・ウィリアムズ『未来を発明する』

ドゥルーズ=ガタリの脱領土化を極端に押し進めるのが新反動主義だが、その一潮流である加速主義の書。加速主義もいろいろあるが本書は左派加速主義とよばれるものである。ながらく邦訳出る出る詐欺が続いている。

まず昨今のOccupy Wall Streetなどの左翼の運動をFolk politics(素朴政治)、個別的、即物的、具体的、局所的であると指摘し、一定の成果はあったもののネオリベラリズムに全く対抗できていないと批判する。さらにグローバル化、機械化により労働需給が緩み、労働者の搾取がすすんでいることについてなにも対処できていないと批判。

そのうえでNeoliberalismがヘゲモニーを握るに至ったのはモンペルラン協会などが長期的な戦略をもち、シンクタンクのネットワークを築き上げ、オールドリベラルも取り込み、メディアへの浸透などを通じてその思想を広げていき、1970年代の外生的供給ショックを契機として表舞台に踊りでたからだと述べる。つまりネオリベラリズムは歴史的、恣意的なもので、必然ではないと言いたいのだ。

左翼もこれにみならい即物性にこだわわず、長期的なビジョンをもつべきだと主張する。そのプロジェクトの概要は以下の4つ。

1 オートメーションを徹底的に加速させて生産性を落とすことなく労働を減らす。
2 ベーシックインカム(BI)の導入、しかもたんなる福祉の代替ではなくちゃんと生活できるレベルで。
3 オートメーションとBIにより労働から解放される。
4 勤労は美徳であるという価値観を転倒させる。

日本のように労働と尊厳、生殖がわかちがたく結びついている社会では4が一番むずかしいように思える。つまり現状は稼げない男は結婚できないし子孫も残せない社会ということ。しかしおそらく著者らはサイボーグ・フェミニズムも射程にいれていると思われる。つまり草薙素子や人口子宮やセクサロイドということで、テクノロジーはそこまで加速、徹底する必要がある。やはりサイボーグ・フェミニズムは新反動主義と相性がいい。

つまり人工子宮があれば男は女にもてなくても子供をつくれるし、セクサロイドがいれば性的欲求はみたされるだろう。なのでもてるために無理して働く必要がない。かつてケインズが夢見たように週3日15時間労働で十分だ。女も草薙素子化すれば体力差をあっさりと克服できるだろうし、人工子宮は出産は人権侵害などとのたまうラディカル・フェミニストのみなさんも納得できるだろう。

画期的なテクノロジーの開発には政府の関与が必要とも述べていて、ここは右派加速主義や無条件的加速主義とは明確に異なる。その文脈でModern Monetary Theoryに触れているのが興味深い。もちろんMMTerはUBIには否定的なので著者らが正しくMMTを理解しているかどうかはあやしい。個人的にはMMTerが提唱するような政府による雇用保障で賃金を高く保つことは、設備投資やテクノロジーを加速させることになると思う。筆者らはそうではなくBIは労働者の発言力を高めるので賃金が高くなると思っているふしがあるが、その経路でもテクノロジーは加速するだろう。

左派加速主義というだけあって著者らは政治左派である。労働者の解放とか環境問題の解決とかはまあいいんだけど、すぐ男女平等とかいい出すのはちょっとあれだなあと思った。上に述べたようにサイボーグ・フェミニズムにより止揚するつもりなのだろうが、それを明記しているわけではない。

とはいうものの重要な著作なので早く翻訳されてほしいな。

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