ファスナーのコーティング
ファスナーのコーティングを決定する際に考慮すべき要素と、お勧めのコーティングを紹介します。
ファスナーのコーティングとは
ファスナー(締結部材)の仕上げまたはコーティングは装飾のため、また防錆・防食や耐摩耗性等を高めてファスナーを製品寿命まで保たせるために実施します。
考慮すべき要素
適切なファスナーのコーティング(仕上げ)を決めるには次の要素を考慮します。
安全性
ファスナーの不適切な仕上げはファスナーを破損する場合があります。よく知られた危険は「水素脆化(遅れ破壊)」です。水素脆化は主に高強度ファスナーにおいて、めっきプロセス中に金属が水素を吸収することで生じます。⇒吸収された水素によりファスナーの強度(延性又は靭性)が低下します。
耐久性
仕上げコートの持続時間は使用環境の影響を受けます。食塩水・洗浄剤への暴露、湿気等がコーティングの持続時間に大きく影響します。厳しい条件に耐えなければならないファスナーには、より強力なコーティングが必要不可欠です。
耐摩耗性・傷耐性
頻繁に締め付け・緩めを繰り返すファスナーには作業中の摩耗やひっかき傷、凹みを引き起こす衝突等への摩耗耐性・傷耐性が求められます。比較的柔らかくもろい仕上げ(つまり安価な仕上げ)のファスナーは、組み立てやメンテナンス中から多くのダメージを受けやすく、より注意を払う必要があります。このことは作業者に一層の慎重さを要求し作業効率を低下させます。さらにはファスナー交換の頻度が上がり、結果的に製品の総所有コスト(TCO)を押し上げます。
摩擦係数
接合部の緩みは全体に悪影響を及ぼします。設計者は緩みを生じさせないよう軸力を設計し、摩擦係数や安全係数等を考慮して締め付けトルクを決定します。
ここで注意しなければならないのは、一部の仕上げには予定している材質の組み合わせの既知の摩擦値がないことです。安全・安心のために、繰り返し一貫した軸力を必要とするジョイント部のファスナーでは、摩擦値が不明な仕上げは避けてください。
機能性
仕上げによっては、凹部やねじ部にコーティング材が多く残ります。特に直径が小さいファスナーや内部に凹部ドライブがある場合にはコーティングがねじ山やドライブを塞いでしまうことで締結できなくなる恐れがあります。
コスト
原則的にコーティングは高機能であればあるほど、ファスナーの価格と総生産コストを増加させます。
可用性(かようせい、 availability)の高さ
望みの仕上げは市場で簡単に見つかりますか。それとも、長いリードタイムとより多くの費用が必要となる特注品ですか。前者なら可用性が高い、つまり調達しづらい状況に陥る恐れは低いと言えます。もし後者であれば可用性が低い、つまり調達や即座の対応に不安を残します。
一般的な仕上げ
もし、コストや時間が焦点であれば、次に挙げる比較的簡単に利用できるコーティングをご検討ください。
電気亜鉛めっき
電気亜鉛めっきは安価で、軽度から中程度の条件下で機能し、作業中のひっかきや打撃に対しての傷耐性も適度にあります。リセスやねじ山の許容範囲等も問題になりません。しかし、摩擦の制御が難しく、高強度ファスナーでは水素脆化のリスクがあります。
めっき膜はファスナーを完全に覆い外部の腐食因子(酸素・水分・塩分等)を遮断します。さらにはめっき皮膜が局部的に欠損しても周辺の亜鉛が鉄より先に溶け出す「犠牲防食作用」でファスナーを保護します。
通常亜鉛めっきには、耐食性を増すためのクロメート処理が実施されてきました。クロメート処理には光沢などの装飾効果もあります。現在は環境負荷の少ない六価クロムフリーの三価クロム化成処理(三価クロメート処理と呼ばれることもあります)が主流となっています。
亜鉛ニッケル合金めっき
ジンロイ等の亜鉛ニッケル合金めっきの耐食性は、亜鉛系合金めっきの中でトップクラスです。また、耐食性・意匠性を上げるためさらにトップコート処理をする場合もあります。
ニッケルが亜鉛皮膜の過剰防食を抑制し亜鉛めっきの「犠牲防食作用」が長く続きます。そして普通の亜鉛めっきよりも耐熱性が向上し、硬い被膜を形成します。非常に過酷な条件下まで機能し、摩耗やひっかき傷、打撃による凹みに対しても優れた耐性を備えています。耐熱性にも優れるため自動車部品(エンジン回りなど)に使用されます。さらにリセスの凹みやスレッドの許容範囲等の問題もありません。
デメリットは、摩擦の制御が難しく、コストが高く、電気亜鉛めっきほど可用性が高くないことです。水素脆化の可能性は低くなりますが、ゼロにはなりません。
衝撃亜鉛めっき
衝撃亜鉛めっき(メカニカルめっき)は電解亜鉛めっきほど一般的ではありませんが傷耐性があり、軽度から中程度の腐食に対する耐性を備えています。そして水素脆化のリスクがありません。
ただし、くぼみや穴との相性が悪くエッジ部分で薄くなるので、亜鉛層の形成を厳密に制御する必要がありスレッドにはお勧めしません。コストは中から高、また可用性は中から低です。
亜鉛フレークコート
亜鉛フレークコート(ジオメット®が有名)の膜厚はとても薄い(ジオメットで8μmほど)のですが、非常に重度の腐食からワークを保護し、高い摩擦制御を備え水素脆化のリスクがありません。
無電解的なコーティングで、亜鉛とアルミニウムのフレークの混合物を無機マトリックスによって結合させています。スプレーやディップスピンコーティングで塗布し、設定時間、指定温度のオーブン内で硬化させ(アニーリング)、薄く均一に密着したコーティングが生成されます。ひっかきや打撃に対しての中程度の耐性がありコストも中程度です。なお、内部ドライブを備えたファスナーにはお勧めできません。
亜鉛フレークコーティングの仕様は、国際規格 ISO 10683 および欧州規格 EN 13858 で定義されています。
溶融亜鉛めっき
溶融亜鉛めっきは手頃な価格でありながら、ファスナーを非常に重度の腐食から保護し、高い傷耐性を備えています。溶融金属中に処理物を浸せきし、表面に溶融金属およびその合金層を形成させる表面処理です。
亜鉛と鉄との「合金層」が形成されて亜鉛と鉄が強く金属結合し、長期間めっきが剥がれません。まためっき層は一般の電気亜鉛めっきよりも厚く(つまり含有される亜鉛が多く)、亜鉛めっきの「保護皮膜作用」「犠牲防食作用」がより長く続きます。
ただし、摩擦を制御するのは難しく、また、めっきの厚さゆえにM8未満のねじや内部ドライブファスナーにはお勧めできません。また、高温で溶かした亜鉛に部品を漬けるのでファスナーの強度が低下するため、熱処理した製品には不適です。
電着塗装
電着塗装は水素脆化のリスクがなく、非常に厳しい条件でも機能します。適度の傷耐性があり、摩擦の制御に優れています。M4以上のスレッドなら問題なく利用できます。 しかしながら、高価です。
トライボロジー ドライ コーティング
ボサードのecosyn® tribological dry coatingは統合された潤滑特性と腐食保護を備えた、非電解的に実施する薄層コーティングです。摩擦係数のバラツキが少なく、潤滑性が永続します。優れた滑り性と焼き付き防止性を持ち、機械的特性への影響を与えません。水素脆化のリスクがなくボルト、ナット、ワッシャーなど、機械的に応力がかかる締結要素およびコンポーネントのコーティングのソリューションです。
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