見出し画像

ねじの話 「ファスナー材料 金属 第四回 合金鋼」

第四回は「合金鋼」に注目します。添加される合金元素によって、炭素鋼の機械特性を高めコントロールします。

ねじの話 ファスナー材料 金属 
第一回    金属とは
第二回 鉄鋼金属
第三回 炭素鋼
第四回 合金鋼
第五回 ステンレス鋼(近日公開)


合金鋼

合金鋼(ごうきんこう)は、鉄に主要な合金元素を添加して作られる鋼の一種です。添加される合金元素が鋼の特性を向上させます。合金鋼には、ステンレス鋼やクロムモリブデン鋼(耐熱鋼)、高張力鋼(ハイテン)などがあり、幅広い産業分野で使用されています。

鉄と添加される合金元素

一般的にクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)などの元素を炭素鋼に添加します。これらの添加物は原子構造を変化させ、結晶格子を強化するので、合金鋼は高い強度と硬度を持ちます。加えて適切な熱処理を施すことで、さらなる強度や硬度、また靭性を得ることができます。
一般に鋼の焼入性は炭素量と結晶粒によって決定されますが、合金元素を添加すると、その添加量とともに焼入性は増加します(一部例外あり)。そして合金元素を2つ以上添加すると、相乗的に焼入性を向上させます。

例えば、クロムやニッケルを添加することで耐腐食性が向上します。この特性は、海洋環境や化学工場など、腐食の影響を受ける場所で重要です。一部の合金鋼は優れた耐摩耗性を持ち、重要な機械部品の寿命を延ばすのに役立ちます。

合金鋼は、その含有する合金元素の総量によって、次のように分類することがあります。

合金元素の含有量α
低合金鋼(Low Alloy Steel)   α≦5%
中合金鋼(Medium Alloy Steel) 5%<α<10%
高合金鋼(High Alloy Steel)   10%≦α

もう少し詳しく見てみましょう。

合金鋼の分類

低合金鋼(Low Alloy Steel)

低合金鋼は、その優れたバランスと汎用性から、広範な産業で重要な材料として利用されています。特にコストを抑えながら一定の性能向上を実現するため、多くの製品や構造物に欠かせない鋼材として今日でも広く用いられています。

低合金鋼の使用例 ベアリング


低合金鋼の代表例

SCr420:クロム鋼 (機械構造用合金鋼鋼材)

械構造用炭素鋼にクロムを 0.90~1.20%とマンガン0.60~0.90%を添加し、焼入れ性を改良した材料です。焼入れ性、耐食性、耐熱性、焼戻し軟化抵抗性、耐酸化性、耐摩耗性が向上します。
スチール(S)とクロム(Cr)を現わす記号の後ろに3桁の数字が続きます。1桁目は主要合金元素量を表すコード(2、4、6、8)、次いで2桁の炭素量の代表値の100倍した値が記されます。
例えばSCr420は、合金元素量コードが4、炭素含有量の中間値が0.20%(含有量0.18~0.23%)です。一般的な機械部品や歯車、軸受けなどに使用されます。

SNCM220:ニッケルクロムモリブデン鋼(機械構造用合金鋼鋼材)

SNCM220は炭素量(C)を0.17~0.23%、ニッケル(Ni)を0.40~0.70%、クロム(Cr)を0.40~0.60%、モリブデン(Mo)を0.15~0.25%を含んでおり、機械部品の製造や熱処理に適した材料で、歯車や軸類によく使用されます。

中合金鋼(Medium Alloy Steel)

中合金鋼は、低合金鋼に比べて高い強度と硬度を持ちます。これにより、より高負荷や厳しい条件下での使用が求められる製品や構造部材に適しています。
一部の中合金鋼は耐摩耗性に優れているため、機械部品や切削工具などの耐久性が重要な製品に使用します。
また、耐腐食性が向上する合金元素が含まれているものもあり、海洋環境や化学工場など、腐食の影響を受ける場所で使用されることがあります。

中合金鋼の使用例 クランクシャフト

中合金鋼の代表例

SCM440:クロムモリブデン鋼 (機械構造用合金鋼鋼材)

SCM440は中合金鋼の代表的な材料で、炭素量(C)を0.38~0.43%、クロム(Cr)を0.90~1.20%、モリブデンは0.15~0.30%、0.25%以下のニッケル(Ni)を含みます。クロムモリブデン鋼のうち、比較的硬度の高い鋼種で、 強さと靭性を必要とする物に用いられます。焼入れにより硬化し、その後適切な焼き戻しを行うことで強靭性が得られます。一般的に流通しているので入手性が良く焼き入れ加工も行いやすい素材なので、航空機の部品や自動車のクランクシャフトなどに使用されます。

SNCM439:ニッケルクロムモリブデン鋼(機械構造用合金鋼鋼材)

炭素量(C)を0.36~0.43%、ニッケル(Ni)を1.60~2.00%、クロム(Cr)を0.60~1.00%、モリブデン(Mo)を0.15~0.30%含みます。SNCM439はニッケルクロムモリブデン鋼の中でも比較的高い降伏点、引張強さを持つ材料です。焼入れ性に優れ、高い強度と耐摩耗性を持つ靭性に優れた強靭鋼です。大型軸類や歯車、機械部品に適しています。

高合金鋼

合金鋼の高合金鋼(High Alloy Steel)は、非常に多くの合金元素を含有する鋼の一種です。クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、タングステン、コバルト(Co)、銅(Cu)、チタン(Ti)などの合金元素が10%以上の高い割合で添加されています。
高合金鋼は、非常に高い強度、硬度、耐摩耗性、耐腐食性などの特性を持っています。また、一部の高合金鋼は、高温環境での使用に適しています。そのため、航空宇宙産業のジェットエンジン部品、原子力発電所の部品、高性能自動車のエンジン部品、切削工具、特殊な工具や工業用刃物など、高い性能が必要な分野で広く使用されています。

高合金鋼の使用例 洋上プラント


高合金鋼の代表例

SUS316:(冷間圧延ステンレス鋼)

オーステナイトステンレス鋼の一種です。SUS316はクロムを約16.00~18.00%、またニッケルを10.00~14.00%含み、それにモリブデンを2.00~3.00%添加して耐食性、耐孔食性をさらに向上させたステンレス鋼です(炭素は0.08%以下)。海洋環境や化学工場の部品、化学品を運ぶタンカーなどの船舶や外壁パネルなど建築部材などに広く使用されます。

SKD11:(合金工具鋼鋼材)

SKDは「Steel Kougu Dice」の略で、「Steel」は鉄鋼、「Kougu」は工具、「Dice」は金型を意味します。高炭素・高クロムの工具鋼で、1.40〜1.60%の炭素を含有し各種元素を添加して性質の向上を図った合金鋼です。炭素工具鋼にクロムを11.00〜13.00%、モリブデンを0.80〜1.20%、バナジウムを0.20~0.50%添加しています。耐摩耗性に優れ、熱処理時の歪みが少なく、熱処理によって硬度を上げることができます。主に金型に用いられますが、ねじ転造ダイスや切削工具などの高耐摩耗性が求められる用途に使用されます。

今回は「鉄」に炭素に加え他の合金元素を添加した「合金鋼」についてみてきました。添加する元素とその分量、さらには熱処理によって望みの機械特性を得ることができる素材、「鉄」の懐の深さを感じることができたのではないでしょうか?

次回の『「ねじの話」ファスナー材料 金属 第五回』はステンレス鋼についてもう少し深堀します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?