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「明晰夢はただの夢」派

夢とは?明晰夢とは?

夢とは何か.Wikipediaから引用を失礼する.
(https://ja.wikipedia.org/wiki/夢#神経生理学における夢の理解)

睡眠中には脳が、過去に見聞きした情報をジャンルごとに整理する。ジャンルは例えば「小学校時代」、「大学時代」、「友達」、「家族」、「恋愛」、「仕事」などに分けられ、ジャンル分けされた記憶の倉庫から引き出したり、まとめたりの作業を脳が睡眠中に行っているが、その過程を脳内で再生している状態が夢だと言われている。いわば、自分だけが見ることのできる、「個人的なドキュメンタリー映画」のようなものである。従って、睡眠環境から取り込まれた刺激以外は、体験したことや実際に目にしたものが断片的に組み合わされ、脳内でストーリー化してゆく。ただし、子供はテレビ、絵本、漫画などの外部刺激に夢の内容が左右されやすく、実体験以外の映像や想像などの要素でも、それらが組み合わさり夢になることがある。夢の内容は、最近の夢に関する調査の際の頻出語から、高齢者では、「旅行」、「仕事」、「トイレ」、「母」などが多く、大学生では、「友達」、「遊ぶ」、「サークル」、高校生は「友達」、「学校」、「クラス」、「部活動」など、どの年代を通しても生活上、密接に関わっている言葉が多く確認されている。この結果から、自我の確立する高校生以上の年代では、日常の実体験を元により日常に近い内容で夢が構成されているといえる。

まとめると,

・睡眠中は記憶の整理が行なわれる.
・記憶の整理過程を脳内で再生している状態が夢である.
・例えるなら,個人的ドキュメンタリー映画を鑑賞しているようなもの.

となる.夢とは脳内で上映された映画であり,我々は(時には五感の一部も伴った)鑑賞者である.

明晰夢とは何か.またまた引用を失礼する.
(https://ja.wikipedia.org/wiki/明晰夢#メカニズム)

脳内において思考・意識・長期記憶などに関わる前頭葉等が、海馬などと連携し、覚醒時に入力された情報を整理する前段階(夢)において、前頭葉が半覚醒状態の為に起こると考えられ、明晰夢の内容は見ている本人がある程度コントロールしたり、悪夢を自分の望む内容(厳密に言えば無意識的な夢と意識的な想像の中間的な状態)に変えたり、思い通りの事を(実現可能な範囲内で)覚醒時に体験したりすることが可能である。明晰夢自体は睡眠時に誰にでも起こりうる生理的現象であるが、睡眠時に常に起こるわけではない。どのような条件下で夢を自覚するのかについては特定されていないため、意図的に明晰夢を見る確実な方法はない。

まとめると,

・明晰夢の内容は思い通りに変えることができる.
・前頭葉が半覚醒状態のために起こると考えられている.
・見るための条件に関しては詳細がわかっていない.

となる.

明晰夢は様々な種類の夢の中でも特別視されることが多い.普通の夢では我々は鑑賞者であるのみだったが,明晰夢では監督になれるのだ.そりゃあ特別だろう.私もつい最近までそのように考えていたし,なんなら明晰夢を見るための訓練(夢日記をつけたり瞑想をしたり...)をしていた時期もあった.結果として明晰夢は見ることができなかったが.

本題

さて,ここからが本題である.最近私が考えるのは,「明晰夢,本当はただの夢と変わりないのではないか」ということだ.

というのも,最近私は次のような夢を見た.「『明晰夢を見て,見れたぞ!!と喜んで起きる私』の夢」である.一回読んだだけではよくわからないだろうか.図解すると以下のようになる.(「インセプション」を見たことのある方ならすんなり理解できるかもしれない.)

現実の私

夢レイヤー1の私(これが夢であると現実の私は認識できていない)

夢レイヤー2の私(これが夢であると夢レイヤー1の私は認識できている)

目覚めた現実の私は,「この夢は明晰夢だったのか?それともただの夢だったのか?」と自問することとなった.

先の図の「夢レイヤー2の私」を夢で鑑賞しているとき,感覚的には明晰夢を見ているような五感の鋭さがあったように記憶している.しかし,ストーリー上はこの夢は全体として「明晰夢を見ている夢」であり,その夢のメタ認知には失敗していた.従ってこの夢は全体としては明晰夢ではないのではないか?

このようなことをぐるぐる考えていたある日,私の頭に何かが降りてきた.

「そもそも世の中の明晰夢って,『外界を鋭敏に認知し,夢だということも認知した上でそれを自在に操る夢』を見ているというだけなのでは?」

こんな問いが,頭に突然湧いたのである.先ほどの映画の例えを使えば,この問いは

「『監督になる夢』を鑑賞しているだけなのでは?」

と翻訳できるだろう.

この問いが浮かんでから,今までの明晰夢に関する知識をこの仮定のもとで解釈し直してみた.すると,意外にもすんなり(無理やり?)説明が通ったのである.今からそれを詳細に述べたいと思う.

以下,明晰夢とは「いわゆる世間一般の明晰夢のイメージ」のことを指し,私が主張したい”本当の明晰夢の正体”と呼ぶべきものを「明晰夢を見ている夢」と表現することにする.混乱しないようにしていただきたい.

切り口その1:明晰夢を見るための訓練

明晰夢を見るための訓練として,「日頃からこの世界が夢かどうかを自問する」といった類のものがよく知られている.そうすると夢の中でも「ここが夢かどうか」を自問するようになり,そこが夢の中だと気付けるという寸法である.

さあ,この現象を先ほどの仮定のもと解釈するとどうなるか.

<現実世界>
①「ここが夢かどうか」を自問する(習慣がつく).
②こういったテクニックを駆使した結果明晰夢を見ている(そこが夢と認識できている)自分を想像し,期待する.

<夢の世界>
①’(①の記憶の上映)「ここが夢かどうか」を自問する.
②’(②の記憶の上映)その結果,明晰夢(期待された自分の像の記憶)が見れた!自分の周りの世界を自由自在に操れる!

どうだろうか.一般の夢を見るメカニズムで,明晰夢までもが説明できてしまった.詭弁だろうか.詭弁かもしれない.しかし,面白い.

②’において,「自由自在」といっているのが少し気持ち悪いかもしれない.②’があくまでも②の記憶の上映だとすると,②’の「自由自在」は先にデザインされた作り物(つまり自由と対極のもの)のように思える.多くの明晰夢信者はこの仮説を信じたくはないだろう.しかしよく考えてみてほしい.自分が「自由自在」と信じ込んでいる(認知している)のならそれは「自由自在」なのではなかろうか.もっと言えば,現実世界で「自由意志」と信じているそれが誰か(何か)によって先にデザインされていないとどうして言い切れるのだろうか?

その文脈で言えば,②’の「自由自在」が現実世界の「自由自在」と大差ないものだと思えるのではないだろうか.落ち込んでいた明晰夢信者の方々は顔を上げていただきたい.

切り口その2:前頭葉の半覚醒状態

「明晰夢はただの夢」仮説と相性が悪いのが,「明晰夢状態のとき,前頭葉が半覚醒状態になる」という明晰夢の特殊性である.

この特殊性を,どうにかして普通の夢と同様に理解(解釈)したい.

そのために重要な知識が,「レム睡眠時,夢の中での活動に対応した脳の部位が活動する」ということである.例えば,人と会話する夢を見れば言語野が働くし,走る夢を見れば,走るために活動する脳の部位が同じように活動する(筋肉には指令が届かないようになっている).夢(記憶の上映)に応じて脳のしかるべき部分が活動する必要があるのである.

では「明晰夢を見ている夢」を見る(上映する)としたら脳のどの部位を活動させれば良いのだろうか.人間が抱く明晰夢のイメージの中で,「意識・(自由)意志・判断力」は必要不可欠なものであろう.(逆にいえば,「意識・(自由)意志・判断力」を強烈に必要とする夢のことを「明晰夢」と再定義しても良いのかもしれない.)したがって,「意識・(自由)意志・判断力」に不可欠な前頭葉を起こしてやる必要がある.そんなこんなで前頭葉は半覚醒状態になっているのではないだろうか.

前頭葉が半覚醒状態だから明晰夢を見る,というよりは,明晰夢(を見ている夢)を上映するために必要な前頭葉を叩き起こしてやる,というイメージである.「会話する夢」を上映するために必要な言語野を叩き起こして活動させるのと同様である.

「やっぱり意識や判断力を必要とする夢という点で,明晰夢(を見ている夢)は特別じゃないか!」という声が聞こえてきそうだが,ここまできたら「意識を特別視するか」といった問題と同値なのではないかと思う.私はそれほど特別視すべきと感じていないため,タイトルのような考えを受け入れやすかったのかもしれないが,皆さんにはやはり違和感があるだろうか.

終わりに

正直,そこまでして明晰夢をただの夢だと思いたいわけでもない.明晰夢がそれなりに特別であることもわかっているし,自分が見た経験からも,”アレ”を特別扱いしたいと思うのは当然である.

このnoteが試みたのは,「明晰夢はただの夢」と考えることによって何か不都合が生じるのかを思考実験することであった.そして,上で見た二つの切り口に関しては無理やりではあったが説明をつけることが可能であり,大きな不都合は生じないことがわかった.

こういった思考は面白い.論文にするなら怒られるのは当たり前だが,noteに書き散らすくらいなら誰も文句は言うまい.反論は常時受け付けている.


あなたの記憶にこの記事は強く刻み込まれただろうか?
もしこの記事が夢に出てきたのなら,その可能性は非常に高いだろう.






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