数少ない恐怖実話②・カランコロンお化け

小学生だったと思う。2階ベッドの下で寝ていた私は下駄の音で目が覚めた。ぼんやりした頭で「そっかぁ田舎だからねえ」なんて思い、そう思った自分に違和感を感じてしっかり目が覚めてしまった。

いくら田舎だからといって下駄を履いている人なんか、みたことがない。地方出身の方ならわかると思う。車社会の地域は、あまり歩かない。移動はほぼ車。元気なおじいちゃん、おばあちゃんだってさっそうとスクーターでスーパーへ行く姿をよく見ていた。足元が下駄の老人なんて見たことがない。

「ゲゲゲの鬼太郎って本当にいるのかもしれない」と子どもらしい思考が浮かび「そんなわけないじゃん」ともう一人の私が突っ込む。気のせいだ、寝よう、と思うと下駄の音が大きくなる。

からーん。ころーん。からーん。ころーん。

リズムよく、よく響く。そう、よく響くのだ。その方向にある、お堂を思い出す。昼間よくこどもが遊ぶお堂だ。墓石らしいものはあるが、そこに骨は埋まってないと聞いた。林の中にあるけど手入れがされていて、年に数回お堂の中に入って食事をする小さなお祭りもある。そこでお菓子を貰えるのがたのしみの一つだったりする。ちっとも怖いと思わない、お堂の方から、なぜか下駄の音がする。

なんか、悪いことしたっけ?遊ぶ時はよくお参りをする。カラカラと錆びた鈴をなんとか鳴らして、ふざけたり、時々神妙にしたり、しょっちゅう参ってた。あれがよくなかったのかな?

怖くて怖くて、がたがた震えながらタオルケットをびっちりかぶって、身体で端を抑え込むようにして朝を待った。


は!と目を開けたら朝だった。私はガッチガチに固まった身体のままで、「おにいちゃん!おにいちゃん!」と叫んだ。2段ベッドの上から、兄が頭をひょこっと出した。

「なんだようるさいな。まだ早いよ」

興奮して昨夜のことを話すと、半信半疑だった兄はこういった。「わかった。じゃあ俺、今夜がんばって起きてるよ」と。

「え?」そんなんで聞こえるとは思えなかったし、のび太並みにすぐ寝る兄が起きていられるとも思わなかったが「俺が起きてるから、お前は寝ろ」という兄の言葉に少し安心して、その夜はぐっすり眠れた。あの音が近づいてきたらどうしよう、なんてもやもやしていたのに。

次の朝、クールな兄が少し興奮気味に話してくれた。

「眠くてもうだめだ、と思ったらさ、最初に鈴の音がしたんだよ。しゃんしゃんしゃんしゃんって。ほらお坊さんが持ってるあの棒のやつ。で、その後にからーんころーんって始まってさ。お前が言ってたことは本当だったんだ!と思って寝たよ」

「え?寝たの?怖くなかったの?」驚く私。

「まあ、話を聞いていたから。別に怖くはなかったな。でも本当に下駄の音だったよ。なんだろうね」

淡々と話す兄に、そうかそれほど怖がらなくてもいいのか、と気が抜けた私は成人してその家を出るまで二度とその下駄の音を聞かなかった。

何度も、あれは誰かが本当に歩いていたのでは?と思うがあの道には街頭が一本もなく、片側はちょっとした崖に面していてとても夜歩くような道ではない。私は鈴の音は聞いていないが、足音がずっと同じ場所から響いてくるのが不思議だった。遠ざかるようで近づくようで。

それ以上何かを確かめることもなく、大人になり、今後もなにかを確かめることは、ない。私は今でも帰省する度にそのお堂に行く。静かにすがすがしいお堂は無人だがひっそりと手入れがされ、いつ行っても気持ちが良い。行くのは明るい時間だけにしている。


#私の不思議体験

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