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大ヒットで困惑「〇〇メーカー」

これは誰かにやってほしいビジネスアイデア小説です。今回は家電。ほんとに切実に、作ってほしいしゼッタイ売れると思うんです。

その町工場は大忙しだった。

発売したばかりの商品がとんでもない売れ行きをし始め、製造も電話対応もまったくなにもかも追いつかないのだ。

「やりましたねっ社長!!」

そんな言葉を何度聞いたことだろう。社長と呼ばれた男は嬉しさよりも焦りの方が強かった。注文は入っているのに、商品が足りない。多忙を極める中、社員たちが楽しそうなのが救いだ。しかしそろそろどうにかしなくてはならない。なぜかテレビや雑誌から頻繁に取材の連絡が入るが電話対応も追いついていない。

どうやらSNSとやらでも、もてはやされているらしく、問い合わせが多すぎて電話もメールもパンクしている。

俺は一体、何を作ってしまったんだ?こんな大ごとになるなんて。


きっかけは妻の一言だった。

「あ~もう!作っても作っても足りない!これが自動的に作れたらいいのに」

ぼやきながらサッカーの練習に行く息子の水筒に飲み物を入れ、水の入ったポットを火にかけていた。一度沸かしてからそれを作るのが妻の決まりだった。

その時ふと閃いたのだ。そうか。コーヒーメーカーがあるんだからそれを自動で作る家電があってもいいじゃないか。

そこで家電用品店へ行ってコーヒーメーカーを見て回り、電気ポットや調理家電まで調べているうちに、割と簡単な仕組みでそれを自動的に作れるのではと思いついた。試行錯誤の上、なんとか出来上がったのは2台の家電を繋ぎ合わせた不格好な代物だったが、思いのほか妻が喜んでくれた。

そこで話題として社員にも見せたら「これを作って売りたい!」という声があがり、製品化したのだった。社員の中でも、きっちり仕事をしてくれるパートの高木さんに「社長。これ作ってくれないと辞めますから」と笑顔とも本気とも言えない顔で言われたことが響いた。彼女が辞めると全員困るのだ。

高木さんの笑顔の圧力もあってか、社員で協力してなんとか製品化できた。当初は「おもしろ家電」としてそこそこ売れてくれたらいいとしか思っていなかった。なので電話が鳴りやまない現状が不思議でたまらない。

しまいには「あなたのおかげで長年の労働からやっと解放されました」という感謝状のような手紙まで届き始めた。

妻には「見直したわ!もう残業で遅くなっても文句言わないわ。だって多くの人を救ったんだもの」とうるんだ瞳で微笑まれた。

彼は手の中のコップを見つめた。開発した家電で作った茶色い液体が入っている。そうか。世界はこれの自動化を望んでいたのか。しかしどうして誰も気が付かなったんだろう?コーヒーや炭酸飲料まで家電で作れるっていうのに?

カラン、と氷が解ける音がした。








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