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車校

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記事一覧

車校 その1

氷結のデカいの片手に大学生とパチスロの話をするおっさん、傍らには袋入りのちくわとわかば。一日で100万買った話で盛り上がる共有スペースで、ただひとり黙々と肺を汚す。湯が沸いたのでそそくさとほうじ茶ラテを淹れて階下の自分の部屋へ戻る。濃い目に淹れたはずなのに味が薄くてぼんやりする。

車校 その2

「今逃げなきゃ行けないって時にMT車しかなかったら彼女守れないじゃん」と強い意志を掲げて選んだMTの免許、教官からの強い進言により明日からATに切り替えることにした。なった。あんなクラッチだのギアだの旧時代的なマヤ文明の遺産ばりのオールドテクノロジーなんて投げ捨て明日からは時の宝珠ことATをまんまと享受することにした。

晩飯の時に高校上がりで吉野家の店長を務める男の子が「MT余裕っすね」と声をか

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車校 その3

男同士でじゃれ合う大学生にスマホを向け、「一枚ぐらい撮っとこうや!」「俺も混ぜてえや!」と声をかけるわかばのおっさん。そろそろうっとうしくなってきたのか、言葉も返さない大学生、自分の言葉を無かったように「飲み過ぎたわ…」と言葉を重ねるおっさんを見て少し切なくなる。この大学生とわかばのおっさんの繋がりは教習しかない。あとパチスロ。

宿舎に備え付けの温泉と、毎日のご飯以外に楽しみがない。人間は不思議

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車校 その4

教習がはじまり一週間を経つ頃、初めて晩飯を共にしてまともに会話したのが60近い葉巻を吸うイカツイおっさんと、土方をやりながらカワサキのバイクの夢を見る保護観察中の16のヤンキーだった。

これが中々面白くて、この時期に車校来たことに妙な喜びを覚えた。

おっさんの話をするトーンは超ゆっくりで優しい。森本レオを3倍に希釈したような朗らかさで話す。聞けば若い頃はスーパーカーにだって乗ったし、世界中色ん

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車校 その5

ここの部屋のエアコンを入れると硫黄の匂いがして「すこしくさいけど温泉地っぽくていいな」と思ってたんだけど、ついさっき室外機の真ん前に下水が走っていることを知った。俺が二週間浸り続けた温泉地の匂いはただの下水の匂いだったみたい。嗅覚とか感性みたいなものがバカになってしまったのかな。

教習場の喫煙所によくいる、バラの柄のスカートを履いた89%キャバ嬢のギャルがお気に入りで毎日ウキウキしてたら、今日は

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車校 ラスト

無事最後の試験を通過して、このドブくさいプリズンをブレイクすることが出来た。同期の皆も、ギャルの子以外通過してた。ギャルはギャル。外さない辺りが最高にギャル。今回ギャルには与えてもらってばっかりで申し訳ない。いつか恩返ししたい。

最後部屋を出るとき、勿論おっさんの部屋からは葉巻の煙が燻っていたし、ヤンキーの部屋のドアは開いたままでエグザイルみたいなのを聞きながら荷造りをしていた。皆ここからど

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