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ボルボラが選ぶ! 推薦図書10冊!(画像はリアルガチ私です)

 読書をして知性を磨く……。大切なことですね。私は大切にしています。そこでyuyaさん、戯言遣いさんとともに「推薦図書を10冊選んで紹介しよう!」企画が立ち上げてみました。更にその後、みーにんさんもご参加いただける運びに。なんと素晴らしいことでしょうか。私もその中で皆様のお役に立てれば幸いです。
 なお、以前の記事で書いた通り、これまで紹介してきた本は除外することにしています。旧知のフォロワーさんは「またかよ~」って思っちゃいますからね。遠謀深慮のボルボラとは私のことです。

 ところで、私の執筆作業が遅れてマジですいません。
 いやほら、仕事がね……忙しくてさ……いやまあ『らんダン』でレベルが100になってたりもしたけど……あとベンチプレスで115kg達成したりとか……そういう色々があって……。

 ベンチプレスについては固定ツイートにまでしてイキり倒してるので、既にご存知の方も多いと思いますが、万一、みなさんが見逃していたらいけないと思い、ここにも貼らせて頂きます。

 私は毎日自分で10回くらい再生しています。「おっ、こいつ力持ちだな? いったい誰だ? ―――って俺かァァァァア!! くぅ~~~!!!」っていうのを10回やってます。これ主に精神面の健康にいいんですよ。10回と言わず20回やってもいい。

 ともかく!! 
 前フリが長いと嫌われそうなので、さっそくいきましょう!

1.肉食の思想(鯖田豊之)

 『肉食の思想』1966年(昭和41年)刊行という、のっけからかなり古い本です。

 この本は要するに「肉食である」ということが西洋思想に与えた影響を、日本の食文化との比較から語るという内容です。「なるほど!」と頷かされるところが多かったです。
 ただ、実証研究のレベルに達しているかと考えると厳しいところもあるでしょう。個別の事例を積み重ねて一般論にするとき、どうしても必ず飛躍が起きます。一般化された言明の正しさは難しい問題です。しかし、実は個人的にはそんなことはどうでもいいんです(学問的にはどうでもよくないが)。

 本書の特徴はなんと言っても紹介されている生々しい異文化衝突エピソードです。

 例えば、1856年、日米修好通商条約を結ぶために来日していたタウンゼント・ハリスさんのエピソード。彼は当時の日本の食文化に耐えかね、「牛乳が飲みたい」という内容で幕府に相談した記録があります。
 欧米人にとって日本の食文化は正直かなり過酷だったらしく、教会側でも、「宣教師を日本に派遣するなら、異常なレベルの粗食に耐えられる人を選ぶこと」と明記されていたくらいです。

 ハリスさんはある程度覚悟してきたでしょうが、生活を続けるうちに「せめて牛乳が飲みたい!」ってなったんでしょうね。幕府側の通訳、森山多吉郎さんに実際そう言いに行ったみたいです。さいわい牛は日本にもいるみたいだし、牛肉とは言わないからせめて牛乳を飲ませてもらえませんかと。
 そして森山さんの返事がこれです。

※文章が昔のもので読みにくいので、私が勝手かつ雑に現代語訳したものも一緒に載せます。(本には現代語訳はないです)

森山:このほど当所勤番の者へ、牛乳の儀申立てられ候趣をもって、奉行へ申聞け候ところ、右牛乳は、国民一切食用致さず、殊に牛は土民ども耕耘、その外山野多き土地柄故、運送のため飼ひおき候のみにて、別段蕃殖いたし候儀更にこれなく、稀には児牛生れ候儀これあり候ても、乳汁は全く児牛に与へ、児牛を重に生育いたし候こと故、牛乳を給し候儀一切相成りがたく候間、断りにおよび候。
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ボルボラ現代文訳版 森山:このほどハリスさんから牛乳が飲みたいと奉行までお問い合わせがありましたが、我が国民は誰も牛乳を飲みません。牛は地元民が畑を耕したり、荷運びをすることに使っております。また、とくべつ繁殖させていることもございません。たまには子牛が生まれることはありますが、牛乳はぜんぶ子牛に与えて、子牛を育てるのに使っておりますので、「牛乳をくれ」というご要望は、申し訳ありませんが叶えてあげられません。

 この時点で、森山さんの困惑ぶりが伝わってくるようですね。牛乳というのは、牛の子供が飲むものであると一生懸命説明しています。

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『よつばと!(5)』(電撃コミックス, あずまきよひこ)

 本音では「牛乳を飲むって頭がおかしいのか? お前は牛か? 違うだろ?」とでも言いたいのでしょう。しかし、幕府の大切なお客人だからということで、そこは必死に我慢しています。

 しかし、ハリスさんも本気で牛乳が飲みたいので、簡単にはあきらめずに、粘り腰の交渉に打って出ます

ハリス:御沙汰の趣承知仕り候。さやう候はば、母牛を相求めたく、私手許にて乳汁を絞り候やうに仕るべく候。
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ボルボラ現代語訳:ご判断のほど了解いたしました。そうであれば、母牛を頂戴できないでしょうか。自分で牛乳を絞りますので、いかがでしょうか?

 幕府の森山さんも「どんだけ牛乳飲みたいねんコイツ!?」と思ったことでしょうね。ただ思ったままに答えたらリアルに首が飛びかねません。我慢して次のように答えています。

森山:只今申入れ候通り、牛は耕耘其外運送のため第一のもの故、土人ども大切にいたし、他人に譲り渡し候儀決して相成りがたく候。
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ボルボラ現代語訳:先ほども申し上げました通り、牛は畑を耕したり荷運びをするためのものとして、地元民たちがとても大切にしております。したがって、他人にお譲りすることは致しかねます。

 要するに無理ですと。我慢が伺われますね。社会人らしい受け答えです。
 これぞ異文化衝突、なまなましさ抜群のエピソードです。「話が通じない」とはこういう状態のことを指すのでしょうね。

 このあと、ハリスさんは別件として「ヤギを放し飼いにしていいか」とも問い合わせ、幕府から「やめてください。そもそもヤギなんて我が国にいません」と断られています。ここでも更に「じゃあヤギを香港から輸入する」とムダに粘りましたが、「輸入できたとしても放し飼いは困る」と断られ、「敷地内だったらいい?」「敷地内でも許可できません」と延々と議論を戦わせています。両方めっちゃ大変。

 さて。世の中で唱えられている「お互いの価値観を尊重することが大事」みたいな呪文がありますよね。誰もが軽々しく言うけれども意味わかってるのかと思います。牛乳ひとつでこれだけ揉められ、ほとんど絶対的といっていい相互不理解をつきつけられる世界です。そもそも「お互いの価値観を尊重する」のような教訓は、本来なら具体的な経験・知見を積み重ねたあとにようやく何らかの意味を持つものであって、結論部分を字面だけでなぞって共有しても何もありません。スローガンだけ学生さんに教えても肝心の中身がなければ学びもないのです。それよりもっと具体例を、エピソードを、物語を教えましょう。

 歴史的に注目されるのは条約の内容やその交渉過程なんでしょうけど、そういう大きな話ではないところに、私はむしろ興味を覚えます。
 この手の「大きくはないのだけど、妙に生々しいエピソード」が本書『肉食の思想』には満載されております。とはいえ紹介しているとキリがないのでこれ一つとさせていただきます。
 「価値観の違い」とはリアルにはこういうことだと知れる名著です。



2.BORN TO RUN(クリストファー・マクドゥーガル)

 『BORN TO RUN』は、優れた長距離ランナーとして知られる南米タラウマラ族と、ウルトラマラソン・レースを開催するために奔走するノンフィクションです。舞台はぼちぼち現代、2010年頃ですね。フォーブスやワシントン・ポストでも「今年のベスト本」に選ばれた本です。マラソン界隈はみんな読んでるんじゃないですかね? それくらい有名です。

 ウルトラマラソンとは何か? 簡単にいえば、フルマラソン(42.195km)を超える距離を走るマラソンです。定義上は50kmでもウルトラマラソンですが、基本的には100kmとか160km(=100マイル)、あるいはそれ以上を指すことが多いです。

 メインテーマは南米タラウマラ族とのウルトラマラソン・レース開催なのですが、それとともに「人類にとって走るとはどういうことか?」という点が突き詰められています。『人体600万年史』で知られるダニエル・E・リーバーマンも参加し、科学的にも「走ること」の意味が考察されています。

 人類は他の陸生哺乳類と比べると脆弱な存在に思われがちです。しかし、じつを言えば、「持久力」においては全陸生哺乳類のうちナンバーワンで最強の存在だったりします。「速度」ではチーターや犬、馬が速いですが、距離が伸びるにつれてこいつらは人類を前に脱落していきます。毛皮がなく汗をかくことができる異常な冷却効率の高さと、二足歩行によって生まれた呼吸ペースの自由度(四足獣は身体の走る動作と呼吸=肺の動作を合わせるしかない)がそれを実現しています。他にもいろいろありますが今は割愛しておきましょう。本書を読めば分かることですし。なお、こっち方面に興味が集中するなら、先程のリーバーマンの『人体600万年史』のほうをすすめます。

 タイトルであるBORN TO RUN、すなわち「走るために生まれた」というのは誇張表現ではないわけです。いやまあ、目的関数として「走ること」が設定されているわけではないので、そこはちょっとポエティックな表現ですが、ちゃんと理解できる範囲です。

 さて。ここまでスルーしてきましたが、まず『南米タラウマラ族』のことなんて、皆さんはご存じないと思います。この部族の人たちは「長距離走」に特化した特殊な文化風習をお持ちです。3日3晩、休まず走りまくるという謎イベントを勝手にやっていたりします。
 これだけなら「変な部族だな」で終わりなのですが、問題は彼らがしばしばウルトラマラソン・レースで優勝することです。

 いやちょっと待っておかしくない? スポーツって、最新の科学的理論を習得したコーチのもとで、栄養バランスに気をつけられた食事をして、整った設備でトレーニングしてきた人が勝つものじゃない? なんで電気も水道もなく、食い物もトウモロコシと木の実くらいしかない部族の人がレースで優勝するの? 漫画じゃないんだから、と思うでしょう。私もそう思いました。

 実際、タラウマラ族の走力については疑いもありました。「優勝はたしかにしたが、競争相手が弱かった」とか「南米のよくわからんレースでの優勝だから評価できない」とか色々。
 じゃあ、ちゃんとやりましょうと。場所は南米ですが、レースは欧米側主催で、競争相手もスコット・ジュレクを用意しました。

 スコット・ジュレクと言われても一般にはピンとこないでしょう。ピンとこない固有名詞だらけの紹介文ですみません。でも続けるね! 私は読者を甘やかさない。

 スコット・ジュレクとは、ウルトラマラソン界の覇王です。
 野球でいえばイチロー、アマチュアレスリングでいえば吉田沙保里、体操でいえば内村航平のレベルです。
 これは決して大げさに言っているのではありません。事実、ジュレクは有名なウルトラマラソンで優勝を総なめにしています。スパルタスロン、ハードロック、バッドウォーター、ウエスタンステーツ……特に最後のウエスタンステーツでは前人未到の7年連続優勝を果たしています。オールタイム・ベストのウルトラランナーを選べと言われたら、スコット・ジュレクの名前は絶対に上がります。

 え、どのレース名もピンとこない? すみません……。

 まあ、イチローより野球がうまいやつが南米の奥地にいるとか言われたらビビるでしょう。そして、そんなイチロー並のスコット・ジュレクを相手をつとめるのはタラウマラ族で最速と言われるアルヌルフォ。「誰だそいつ?」と思うでしょう。それは当時のみんながそう思いました。いやだって本当に無名だもん。メキシコの銅峡谷(コッパーキャニオン)でひっそり暮らしてる部族のひとりなんて知るわけない。

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スコット・ジュレク(左)と走るアルヌルフォ(右)

 ではレースの勝敗はどうなったか?
 それは是非、本書を読んでください! 面白いよ!!

 ちなみにこの本に影響されて、しばらく1日おきに10km走っていたことが私にはあります。3ヵ月くらい続けて、体重が75kgまで落ちたのはいいのですが、ベンチプレスの記録も落ちたのでやめました(一時期100kgが挙がらなくなった)。最大筋力と持久筋力の両立は難しいですね!


3.ゴルゴタ(深見真)

 ちょいと箸休めに小説としゃれこみましょう。『ゴルゴタ』は深見真さんの小説です。深見真さんに関しては『ヤングガン・カルナバル』シリーズや、アニメ化もされた『PSYCHO-PASS』で知られています。でも私がいちばん好きなのは『ゴルゴタ』だから。1巻完結なのでサクッと読めるはずです。

 舞台は現代日本。自衛隊の特殊作戦群に所属している主人公・真田聖人は、日本国内に侵入してきた北朝鮮の工作員チームを殲滅する作戦に参加します。この作戦はうまくいったのですが、その後、妻子に不幸が訪れました。不良少年グループ5人に妻子を惨殺されたのです。犯人はすぐに逮捕されましたが、裁判では事実上無罪に等しいちょっとした少年院送致で終わり。当然、納得がいきません。

 ここから彼の復讐劇が始まります。「復讐なんてやってもいいことないんだから……」みたいな説教要素は全くありません。拷問で最大限の苦しみを与えてから殺すというのをキッチリ5人分こなしていきます。非常に爽やかな気持ちになれますね。それ以上の教訓・メッセージとかですか? 無いです。
 ただし、グロテスクな描写がきつい人は避けたほうがいいでしょう。

 作者お得意の銃器描写もいかんなく発揮されていて、戦闘シーンもすばらしい迫力があります。主人公・真田を犯罪者として追跡する刑事キャラも強く、良い味を出しています。冒頭から最後まで、ハラハラドキドキすっきりしながら読めることうけあいです。


4.アダプト思考(ティム・ハーフォード)

 この手の「思考術を教える」「ビジネス書」「自己啓発本」みたいなジャンルは実証という観点からすると怪しいことが多いのですが、そこは作者のティム・ハーフォードを信用しましょう。この人は『まっとうな経済学』『人は意外に合理的』といった著作で有名な学者さんです。こちらも良書なので未読のかたは一読を強くオススメします。

 『アダプト思考』の副題は『予測不能社会で成功に導くアプローチ』です。特に焦点を当てられているのは、失敗からどう学ぶか。このへんツイッターで紹介してきた『失敗の科学』とも共通するテーマですね。

 私は、もうどうにもならなくなった博士後期課程在籍をなかなかロスカットできず、ものすごく人生を停滞させた痛い経験があります。したがいまして「失敗から学ぶ」ことにはわりと敏感です。個人に限定しても、保有効果(「自分のもの」になるとその価値が高まったように感じる効果)や確証バイアス(自分の見解を正しいと支持してくれる証拠ばかり探す認知の歪み)といった、失敗から学習することを妨げる心理は広く知られていることかと思います。これノー対策で乗り切るの無理なんですよね。人類は自分の知性をあんまり信用してはいけません。

 さらに話が個人から集団・組織になると、いっそうややこしくなります。コンコルド効果なんてのは聞いたことがある人も多いと思います。超高速飛行機コンコルドは、開発時点で採算がとれないことが分かっていたのですが、適切にロスカットできず完成させてしまいました。そして約束された巨額の赤字に襲われる会社。やらかしたなあ。でも、みんなやらかすんですよね。人類ですから。

 自分はだいたいにおいて理性的に判断できていると間違って信じている人は、本書を読んで己を見つめ直しましょう。
 

5.蜜のあはれ(室生犀星)

 またまた小説です。というか、小説以外の本が既にだいぶ縛られてしまっている感があります。いや縛ったのは自分ですけども。
 ともあれ、室生犀星の手による『蜜のあはれ/われはうたえどもやぶれかぶれ』ですよ。本には5作収録されておりまして、私がおすすめしたいのはその中でも『蜜のあはれ』です。

 この中編小説は、少女性愛の傑作とされています。ただ少女として登場するのは、人間ではなく金魚(メス)です。一応人間にも化けられるようですが、主人公である「おじさま」と居る時は常に金魚の姿をしています。

 そして、本作はおじさまと金魚による会話文だけで構成されています。地の文はまったくありません。本当に1行たりとも出てこないです。ただひたすら、しかし妙につやっぽい会話が続けられます。

「あたいね、おじさまのお腹のうえをちょろちょろ泳いでいってあげるし、あんよのふとももの上にも乗ってあげてもいいわ。お背中からのぼって髪の中にもぐりこんで、顔にも泳いでいって、おくちのところにしばらくとまっていてもいいのよ、そしたらおじさま、キスができるじゃないの、あたい、大きい眼を一杯にひらいて唇をうんとひらくわ、あたいの唇は大きいし、のめのめがあるし、ちからもあるわよ。」

「おじさま、して。」
「キスかい。」
「あたいのは冷たいけれど、のめっとしていていいでしょう、何の匂いがするか知っていらっしゃる。空と水の匂いよ、おじさま、もう一遍して。」
「君の口も人間の口も、その大きさからは大したちがいはないね、こりこりしていて妙なキスだね。」
「だからおじさまも口を小さくすぼめてするのよ、そう、じっとしていてね、それでいいわ。ではお寝みなさいまし。」

 始終この調子で、ぶっちゃけ『ロリータ』の竿役……じゃない、主人公であるハンバート・ハンバートが正常人に見えるくらいカッ飛んでいます。少女愛描写だという点には疑いようがございませんが、何が筆者にこれを書かせたのか一切謎です。

 ところで、この『蜜のあはれ』はごく最近になって映画化もされました。私は観ていませんが、そちらを鑑賞してもいいかもしれません。評判は悪くないようです。


6.米陸軍サバイバル全書(米陸軍省編)

 専門書・ノンフィクション・小説をあげてきましたので、ここいらで実用書もあげておきましょう。

 そう、『米陸軍サバイバル全書』です。

 実用書でしょう? 文句でもあるんですか?
 これはめっちゃ分厚いです。「全書」の名に恥じない分厚さです。

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 ちゃんと米陸軍省(U.S.ARMY)が責任をもって編纂しています。野外でのシェルターの作り方、飲料水の確保方法、火を使いこなす技術、食料を調達する手段といった基本から始まり、砂漠・熱帯・寒冷地・海上など現地の気候風土に対応した実用的な、断固として実用的なサバイバル・テクニックが詳細かつ豊富に紹介されています。
 日本は河川の多い土地柄ですから、たとえば『第17章:渡河技術をマスターする』などは特に参考になるでしょう。

 就職して引っ越してからすっかりご無沙汰になってしまいましたが、私はもともと山が好きです。精神的に完全に詰んでいた大学院「休学」時代、なぜかやたらと山に行っていました。連続して山を登頂していく、いわゆる「縦走」をやっていたのもこの頃です。自転車で山のふもとまで片道60kmかけて走り、そこから縦走をやって、また帰り60km走るという無茶苦茶をやっていました。(※本当に無茶苦茶なので真似をしないでください。死にます。)

 じつは完全に遭難したこともあるのですが、さいわい登山救助隊のお世話になることはありませんでした。「川をたどれ」というありがたい教えを思い出したからです。とにかく河川を下っていけば、文明圏にたどり着きます。そういえば、ディスカバリー・チャンネルでベア・グリルスが同じことを言っていました。

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ベア・グリルス近影

 やはりピンチを助けてくれるのは知識です。ちなみにあんまり登山用品は持っていません。せいぜいリュックサックくらい。知識があればややこしい登山用品など不要です。『米陸軍サバイバル全書』をしっかり読み込んでから登山にいきましょう。

7.猫の地球儀(秋山瑞人)

 ここまで来ますと、ライトノベルも紹介しないと、もはやバランスが悪いですね。というわけでお気に入りのライトノベル、『猫の地球儀』です。
 作者の秋山瑞人さんは『イリヤの空、UFOの夏』のほうが有名ですが、私は断然こっちの方が好きです。なお、本作に人類いっさい出てきません。

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 表紙絵のロリっ子は人類ではなくロボットです。一応、自律した思考・性格をもちしゃべることもできますが、あくまでも猫があつかう道具という立ち位置です。

 舞台は遠い未来。宇宙ステーションの中で繁栄した猫たちが活躍します。猫ははるか昔に「天使」(※人類)が残していったと言われるロボットをたくみに改造し、操り、独特の社会、文化、そして宗教を形成しています。

 この宗教は猫たちが暮らす宇宙ステーションから見え、かつて天使がいた地球を神聖視しています。たとえば、死んだ猫の魂は地球のもつ昇天力に導かれてそこで平穏を得るとされていたりします。天国の思想ですね。
 しかし、そこに異を唱えるのがスカイウォーカーと呼ばれる事実上の天文学者たちです。彼らはたまに光線を引いて地球へと落ちていく物体は、猫の魂ではなく単なる宇宙ゴミだと言い放ちます。そして生きたまま地球にたどり着くために、落下ポッドの制作をしています。当然、異端として激しい迫害にさらされており、教会から目の敵にされています。あとがきにもあるように、ガリレオ・ガリレイのオマージュです。

 本書は上下巻構成で「焔(ほむら)の章」「幽(かすか)の章」に分かれております。焔はロボットを操って戦う競技の優勝者です。もちろん焔は猫です。しかし、ロボット戦において最強の自負があった焔は、突如として現れた少女型ロボットを操るスカイウォーカー・幽に敗れてしまいます。もちろん幽も猫です。

 これSFとしてめっっっっっちゃいい出来で。下手したらSF小説で一番好きまであります。脳筋マックスな焔も、スカイウォーカーとしての夢の実現――地球への到達――に情熱をかける幽も、すばらしいのです。いま軽く冒頭読み返したらちょっと泣いた。良いライトノベルです。


8.ヤノマミ(国分拓)

 大丈夫です。言いたいことは分かっています。
 限られた10冊という中で、『未開の部族』の話を2つもぶっこんでくるなと。そうおっしゃりたいのでしょう。全体の1/5だぞ何を考えてる?

 はい。ヤノマミはアマゾン最深部で暮らす部族です。『ヤノマミ』の筆者である国分拓さんは、NHKのドキュメンタリー番組のため、実に150日間にわたって彼らと同居しました。彼らと同じところで眠り、同じものを食べ、同じ活動をしました。

 闇、なのだ。全くの、闇なのだ。
 初めての体験だった。それは月のない夜で、どこからか、ぬるく湿った風が吹いていた。僕は赤道直下の深い森にいて、一人、陽が沈んでいくのを見ていた。赤道直下の森では朝六時きっかりに陽は昇り、夕方六時きっかりに陽は沈む。その日も午後六時に陽が沈むと、一時間もしないうちに漆黒の闇に包まれた。金剛インコの群れが飛んでいた空も、威圧的なまでに茂っていた椰子の葉も、不思議な雲がかかっていた山も、蛇や家畜の糞を踏まぬよう注意して歩いていた地面も、全てが黒一色になった。黒い闇、ただ一色になった。

 ヤノマミ族の未開度は並大抵ではありません。FUNASA(ブラジル国立保健財団)による最低限の援助以外は何も受けていません。タラウマラ族はなんだかんだで市場に出ることくらいあります。実際、ウルトラマラソンレースに出て、優勝賞金がわりのトウモロコシを稼いでくることもあったわけです。
 しかし、ヤノマミ族はひたすらジャングルにいて、まず通貨も流通していません。現在では介入の度合いも上がってポルトガル語を話すヤノマミも増え、それほどでもなくなったようですが、この潜入取材が行われた2007年では、まだまだ原始的な文化を色濃く残していました。

 生活環境も文明人なら一日で卒倒しそうなほど過酷です。彼らは自分たちが暮らす集落のことを『ワトリキ』(風の地)と呼びますが、そこはこのような環境です。

 だが、「文明」にどっぷりと浸かった僕たちにとって、深い森での暮らしは快適とは程遠いものでもあった。最初は川の水さえ飲めなかった。セスナで運ぶことのできる食糧も余りに少なく、すぐに食べ尽くされた。空腹の余り、動く度に立ちくらみがした。仕方なく休んでいると、屋根から巨大な虫が落ちてきた。驚いて振り払うと、虫たちは人間のことなど全く気にせず、周囲を飛び回った。見ていたヤノマミが笑った。アハフー、アハフー。蛾、蠍、ゴキブリ、蟋蟀、蝙蝠。どれも大きく、数えられないぐらいたくさんいて、何よりも無遠慮だった。昼間に森を歩けば蚊や虻やらダニやらに襲われた。数日で百か所以上を食われた。夜は夜で用を足すために家の外に出ようとすると、直径二センチ、長さ五十センチはあろうかという巨大なムカデが戸口を塞ぐように横断していた。(中略)だが、しゃがみこんだのも束の間、闇の中から吠え猿のような鋭くけたたましい鳴き声やアマゾン最大の肉食獣ジャガーのような獰猛な唸り声が聞こえてくる。周囲は余りに暗く、余りに静かだったから、声の主は近くの茂みからこちらを威嚇しているように思ってしまう。

 こんなところに暮らしている部族は、いったい何を考え、何をしているのか。そして、どのような歴史を歩んできたのか? 生活と同じくすることで、その深奥に迫っていきます。「ああ、深淵を覗き込む気分はこういうものか」と感じることが出来ると思います。

 ちなみに映像版はYouTubeに公開されています。

 ※ショッキングな内容を含みます。注意!


9.雑草で酔う(青井硝子)

 そろそろ息切れしてきましたか? お前はいったいどこまで振り回す気なのか、疑問に感じてきましたか。これを含めてあと2冊です。頑張りましょう。

 実をいうと、『雑草で酔う』の著者である青井硝子さんとは、少しツイッターのDMで会話させて頂いたことがあります。話題は私も実際に試してみたアヤワスカ・アナログについてです。アヤワスカ・アナログとは、要するに幻覚茶です。本の記載通りにやれば、本当にトリップすることが可能です。今のところ合法……のはずですが、青井硝子さんは2020年5月現在、警察のお世話になっています。一刻も早く自由の身となられることを望みます。

 当然ですが、この本に書いてあることに挑戦するのは、かなり自己責任です。自己責任というワードは嫌いですけども、さすがに「雑草を吸え」なんて誰も強制してないので自己責任です。

 ちなみに私はアヤワスカ・アナログに5回ほど挑戦し、5回ともめちゃくちゃ気持ち悪くなりました。幻覚は見られましたが、吐き気で幻覚を楽しむどころではありません。結論としては「これ、毒だわ」です。いまは全くやっておりません。薬機法が変わるかもしれませんし、廃棄処分といたしました。

 本書ではアヤワスカ・アナログ以外にもさまざまな雑草を吸引してみた場合の効果が並べられています。試すかどうかはともかくとして、読み物として面白いのは確かです。身体をはっていますよ!


10.しないことリスト(pha)

 ラストを飾る10冊目を何にするかは正直とても迷いましたが、最終的にこちら。
 京大卒のブロガー、ギークハウスの生みの親、phaさんの著書のひとつ。その名も『しないことリスト』

 「○○しなくてはならない」(ダイエットとか英語とか仕事とか……)にあふれた現代社会に対し、あえて「しなくてもいいこと」をリスト化し、ラクに生きましょうよと述べている本です。かなり世捨て人的な感じです。

 本書には派手な良さがあるわけではなく、更にいえば、私の生き方と相性がとても悪い、いっそ対照的といっていいくらいの内容です。私は「しなくてもいいこと」をやりまくっています。

 それでも不思議とたまにこの本に手が伸びるのは、おそらく「私は、しなくてもいいことをやっている」と自覚しなおし、力を抜きたくなる瞬間があるからです。

 何かに好奇心を感じ、実際にやってみて、それに熱中して楽しめているうちはいいのですが、ときに重荷になってきます。いつのまにか最初にあったはずの「遊び」の感覚は失われ、義務感にせっつかれている自分に気づきます。そんな時は、ちょっとした解毒剤として本書を読みます。

 まあ、しばらく休んだらまた結局、しなくてもいいようなことをやるんですけども。(考えてみれば、こうしてnote記事を書くのも別に必要ではないことですね)

 『しないことリスト』の紹介文の締めくくりとしては奇妙ですが、みなさん、やらなくてもいいようなことを、やりましょう。それがゴリラとして、唯一正しい生き方です。


あとがきとご紹介

 ひたすら趣味に走ったので、書いている側としては楽しかったです。あー、好き放題に好きな話をした。オタク特有の早口をやった。いつのまにか1万字超えてますよ。どういうことだ?

 最初は「議論術関係!」とか「行動心理学や認知バイアス系!」とか「自然科学系!」とか真面目にやろうかと思ってたんですけど、そういうのは大体自分ルールで潰してしまったし、いっそ好きにやってしまえと。好きにやりました。

 さてさて。他のメンバーの10冊推薦記事もご紹介しておきましょう。

 yuyaさんの記事ですね。10冊の中には読んだことのある本が1冊もねえ。それだけに興味深いラインナップです。ていうか番外編が多いよ!?
 この中では『しあわせの書』に一番興味を覚えました。もちろん推薦文を読んでしまった以上、「何か仕掛けがあるんだろう」と想像しながら読むことになりますが、このハードルを越えてくるのでしょうか? 楽しみです。

 こちらは戯言遣いさんの10冊です。私がざれさんにオススメした『悪童日記』が入っているのが嬉しいポイントです。あとは『君主論』『数学ガール』は私も読んだことがあります。他の歴史系の書籍にどこまで追いすがっていけるか? ちまちまやっていこうと思います。

 こちらはみーにんさんの記事です。とりあえずは準備段階ということで、完成したら完成版のほうにリンクを差し替えます。
 しかし既にして問題がひとつ。

 私、麻雀のルールを知らない……。
 え、えっと! 麻雀のできる方には絶対オススメのものになると思います!

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