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敵兵に銃口を向けなかった少年兵の話

高校生の時からずっと鮮明に心に残っていて、今まで無意識に決して忘れないようにしているのか、ほぼ毎日頭の中でループしているいつか皆んなに伝えないといけないことなのだろうと思っていた話です。

小説など普段あまり読まないので、語彙力も文章力もなく稚拙で恥ずかしいですが使命感のような気持ちで書きました。



20数年前、自分は都内の文京区にある高校に通っていた。

父親の母校でもある歴史の長い男子高だ。

中学は水泳部員で全国一位二位を争う強豪校だったため毎日苦しい部活の日々で全然遊べなかった。

だから卒業と同時に苦しい部活も終わり、片想いだった女子と同じ高校に願書を出し高校では青春を満喫するつもりでいたが父親の強引な勧めで入学したこの高校は、またもや体育会系でオリンピック選手も練習に来るようなところ。

しかも男子校。

正直うんざりだった。

一年生の頃は父親の恩師が現役だったため強引に父親と同じ部活に、半強制的に呼び込まれキツイ練習の日々。体罰も当たり前。

いよいよ嫌になり少しづつサボるようになった。

もう気分が重く校門の前から足が動かなくなり近くの公園で時間を潰す日が増えた。

高校2年生の6月頃

ややうす曇り空のその日も学校近くの公園でサボり、当時はスマホもないので時間潰しに学校前のパン屋で買ったコッペパンをちぎりその公園の池の亀にあげていた。

すると隣にいた一人のおじぃさんが話かけてきた。背は高くないが小太りで恰幅がよいじぃちゃんだ。

説教でもされるのかと面倒くさい気持ちと後ろめたい気持ちになり正直に学校をサボっていることを告げようとするとじぃちゃんは遮る様に

「いいんだいいんだ。

そんなことはいいの。

それより、、、」




、、、戦争の話を聞いてくれと言う。




こちらは学校をサボり家にも帰れず時間を持て余してる。

断る理由はなかった。

池の横にあるベンチに二人で並んで腰掛け池で甲羅干しをする亀を眺めながらじぃちゃんは話を始めた。

「ちょうど君くらいの歳頃だよ。

戦争でね、ベトナムに行ったんだ。」

当時の私の頭ではアメリカと戦争したことしかわからなかったのでやや混乱したがじぃちゃんは話を続けた。

「教科書や映画で観る戦争なんて全部嘘っぱちだよ。あんなのは全部デタラメ、、」

「君と同じ歳くらいで訓練も碌にしてないでベトナムでフランス軍と戦ったんだ。」

もはやなんのことやらだったが、じぃちゃんは真剣な眼差しでしかし優しい目で話す。

「ジャングルでね、谷を挟んでフランス軍と対峙したんだ。

皆んな一斉に窪地に身を潜めた。

すると隊長から突撃命令が下る。

でも、誰も窪地からは足が出ない。

隊長は行け行けと、捲し立て叩くがそれでも誰も足は出ない。

戦場には映画で観るような戦士は一人もいないんだよ。

いるのは死ぬのも怖い、人を殺すのも怖い人間だけ。

フランス軍だって同じだったんだよ。」

その心の籠った語りぶりに当時、自分もまるでベトナムにいるような気持ちになった。

「そうこうしてるうちに銃声が鳴り戦闘が始まった。

たくさんの銃声が響いて、もう何がなんだか訳がわからないよ。

死ぬのも怖いし人を殺すのだって嫌だ。知らずに涙がボロボロ出て来てね。

隊長は突撃と叫んで部下を蹴飛ばす。

俺はもうわーっと叫んでガムシャラに空を撃ったんだ。

とても綺麗な青空だった。

数分か、、、長くても20分くらいかで戦闘は終わったよ。

フランス軍が白旗あげちゃってね。

両軍合わせて犠牲者は一人、、、それは

、、、突撃命令を下した隊長だった、、、」



それからじぃちゃんは少し間をおいて重い口を開いた。



「、、、あれは味方が撃ったんだ、、、、」




二人とも短いけど長い沈黙を感じた。




「でも、そこにいた誰もがそれを責めることはできなかったんだよ、、、」




その内容が衝撃的過ぎて言葉も出なかった。

でもじぃちゃんは、最後にこう言った。 



「俺が戦場で鉄砲を撃ったのは、

後にも先にもこれだけ笑

空だけさ笑」



と、勝ち誇ったような照れくさい笑顔で話を終えた。

なぜじぃちゃんが最後に笑ったのか。実は長いことわからなかった。

その時は日本に帰っても当時は家族にすら絶対言えないこの話ができてスッキリできたのかな?とか考えていたが多分違う。

じぃちゃんは、戦争という狂気に巻き込まれて自分も殺されるかも知れない状況の中でも人に銃口を向けなかった安堵と、憎しみの連鎖に勝った自分を誇った笑いなのだと思う。

戦争がさらに続いたらわからないけど、、それでもじぃちゃんは人に銃口を向けず戦いを終えて本当によかったと思っていたのだろう。

今もご存命かはわからないがきっとこの話を聞いた人はとても少ない。
皆んな国のために死も恐れず勇敢に戦い命を捧げたんだと言われたのだからこんな話できる訳がない。

だから人に語るのがとても苦手で恥ずかしい自分もこの話だけは伝えたいな思う。


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