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煮たまご、それは母性。

家にいる時間が長い。
というか1日中家にいる。
必然的に料理をする時間が増えた。
SNSではやたらとクッキーが焼かれ、パンが焼かれているのを見かける。
街からはホットケーキミックスが消えた。強力粉も薄力粉も片栗粉でさえ手に入らない。
“心が落ち着かないときに何かを焼きたがる”というのは、人間の本能がそうさせるのであって、一種の自己防衛なのかもしれない。


それに関していえば、身覚えがありあまる。

頭の先から爪先までやっさんのことで溺れかけていたころ。
無性に息を引き取りたくなった夜には決まってパウンドケーキを焼いていた。材料さえ揃ってしまえば作業自体はたやすく、淡々と無の境地の時間をたのしめる。
しかも「さぁ焼くか」という瞬間だけは、ぶわっっと胸の前で花が咲くように興奮するのだ。美味しく焼けて、と願ったりなんかして。

心の整理とか頭の中をクリアにするとかそんなキレイなものではなく、考えたくないことを身体から切り離したかった。
「逃げてしまえば楽になれる。逃げたい逃げたい逃げたい」
波打つように浮かんでくる軽薄な思考を「焼き尽くしたい」という欲求。それを満たすための焼き菓子作りだった。

ビジュアル的にはヘンゼルとグレーテルを食べるために鍋をぐつぐつさせている魔女に近い気がする(てか、そんな話であってる?)。


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それはそうと煮たまごです。煮たまご、作りますか?
料理初心者にとって、とてもありがたい食材がたまご。
焼く、茹でる、蒸す、和える、落とす、まぶす、揚げる…。ひとまず、たまごがあれば生きていける、たぶん。TKGにいたっては人生で猪苗代湖1杯ぶんぐらい食べてる、たぶん。

煮たまごの作り方はとても簡単。
いい感じにゆでたまごを作って、いい感じのタレにからめて、いい感じに眠りにつかせる。オーケー、完璧だ。

沸騰したお湯に酢を大さじ1入れるだけで殻が割れない。そこに冷蔵庫から出したばかりのひんやり生たまごをぽちゃんと落として7分。
お湯をすてて、冷たい水にバシャンとつけて、その水の中で殻をむく。

この“水の中でゆでたまごの殻をむく“行為が、自分の中の大変に刺さる“癖”だということに最近になって気づいた。ぜひやってみてほしい。
熱々のたまごを冷たい水にくぐらせると、次第に水がほわわわぁんとあたたかくなっていく。
その中で小さく亀裂を入れて殻の内側の膜をやさしくむいていくと、生温かいぽてぽてした白身のゆでたまごは生まれるのだ。

指でつまむと黄身が飛び出しそうな弾力で、それはそれはとても神聖な贈り物、赤ちゃんの太ももを想像させる。

肌にキズひとつなく無事に殻を取りさることができたとき、“なんて繊細で尊い行為なんだろうか“と、つるりとしたゆでたまごをわたしは天へ掲げる。聖職者にでもなったかのような面持ちで。

さっきまで 「地獄の果てまで焼き尽くしてヤンぞ!ゴラァ!」と闇落ちしていた人間が、ここまで心の平穏を取り戻すのだから、ゆでたまごはすごい。

沸騰したお湯に7分と書いたけれど、7分がいちばん赤ちゃんの尊い太ももを感じることができる。いや、たぶん。
味付けはもうお好みでどうぞ。おすすめは醤油とケチャップ1:1につけたもの。あと、気になっているのはぬか漬け。

ここまで書いてなんだが、煮てはいなかったな。漬けたまごだな。


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新型ウィルスは、まだまだ収束はしないだろう。
自宅待機になり驚くほどに家にいる時間は増えてしまったが、さらに増えることになった。
5月付けで会社を解雇されることになったよー!!

これからどうなるかはわからない。
でも自分は2年前に一度死んだと思っているので、また一からやり直しだ。



恥ならいくらかいても構わないし、奪われるものも何もないからね。


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もれなくやっさんのあんぱん代となるでしょう。あとだいすきなオロナミンCも買ってあげたいと思います。