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トラペジウムとシンジとカメラについて

・はじめに

トラペジウムという作品「カメラのこだわりがちょっとおかしい」アニメです。

公式Xで「シンジ役のJO1木全くんのメディア出演情報」のツイートで、木全くんのアー写もシンジのキャラ絵も使わず「キャラの指先しか写っていない、カメラのアップの絵」が添付された、木全くんファンに届くと思えないような物が混ざっていたりします。

RTやいいねの数も、木全くんやシンジの絵でツイートしたものと比べると格段に少なく、ちょうど「東ゆうのSNSの反応」くらいの値であるのも、今見ると非常に味わい深い。(2024/5/13まで遡ると出てきます)

問題のツイート、明らかに反応が薄い

公開から1か月経っても、この作品のカメラ周りで「あれは一体何だったんだろう?」という思いが消えないので、ここでは謎のカメラへのこだわりから、考察という名の妄想を垂れ流していきたい。
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ここからいきなり、本編ラストのネタバレがはじまるので未見の方は、ここで引き返してください。





・ラストの写真について

この映画、鏡写しでキャラの表情を映す演出が多い中、ラストで写真の前に立つ時は真向に向かい合います。

非常に多い「鏡や窓に反射」するシーン

ここまでの「鏡像と実像のズレ」がラストで0になり、短時間で明らかに作監レベルで違う異なるタッチの絵に切り替わったり冒頭やOPと同じカメラワークや文字の演出が入る等、非常に凝った作りになっていると思います。

・再会シーン
南西東北 人物
東北西南 カバン

この時点では「同じ場所にいて、同じ向きな同士」だがカバンと人とで並びが違う。

ギャラリーのシーン
南西東北 写真
北東西南 人物

ラストでは時を越えて同一人物同士が、同じ並びで向かい合う。

・シンジのカメラについて

シンジのカメラは原作だとライカ。おそらくM型。
レンジファインダー(レンズと別に覗き窓や距離計がついたカメラ)だった所がアニメだとSonyのα7シリーズ(ミラーレス一眼)に。
シャッター音的にα7Ⅱっぽい気がしますが、自分はこのカメラを持ってないので正直よくわかりません。

シンジは「保護用のレンズフィルター」すらつけていないので、ここはシンジの右目でレンズ越しに見たままの「鏡やフィルターを通していない姿の5人」を撮影している、という事でこのチョイスなのだと思います。

Sony α7の場合
ライカの場合、レンズとファインダーの絵に差異が生じる

また、劇中で写真が使われているKAGAYA氏は、Sonyのα7RⅣを「ベストカメラ」と語っていて実際に星空写真も撮っているので、頑張ればきっと似た写真も撮れるぞ…というカメラ警察対策もあるのかもしれません。

トラペジウムと同じくANIPLEXとClover Worksの「明日ちゃんのセーラー服」では原作の時点でソニーのカメラとシルエットが違いすぎて、社名ロゴが無い「ニコンとおぼしきカメラ」になっていたので、このへんの融通が利くのは、トラペジウムは原作者が監修までしているからであろう。

明日ちゃんの谷川さんのカメラ αはこれより角ばっているのでSonyのカメラにできない

・レンズについて


レンズはコシナの「Planar T*1,4/50 zk」。今はもう生産されていないレンズです。

レンズ参考記事はこちら

「Planar T*1,4/50 zk」のPlanarというのはレンズの種類。「平面的な」という意味なので、文字通り平面のスナップ写真にゆうたちを留める意味合いでチョイスしたのだと思います。

1.4というのはF値(レンズが光を通す量の値)で、レンズキットについてくる
ズームレンズだとf3.5くらいと数値が高くなるほど暗くなるので、f1.4というのはかなり明るく撮れるレンズです。
50というのは焦点距離(画角)、50mmは人間の目に近い画角です。レンズも軽くて取り回しもよく、目で見たものをサッと構えてそのまま撮れる「光るものを撮るのは難しい」というシンジくんらしい構成だと思います。

ZKのKというのは、ペンタックスのKマウント用という意味で、
KIPONのマウントアダプターを使って装着。
アニメに出てくるカメラはマニアックなものが少なくない中、ひときわ異質になっています。


最初は「シンジは学生でお金が無いので、過去に使っていたペンタックスKシリーズのレンズ資産を使っている」と解釈したのですが、中学生の時にニュージーランドのテカポ湖に行ったり、原作だと劇中のカメラと比べてお高いライカを使っていたりと、シンジは「南さんの次に実家が太い」節が見られるので、ちょっと違和感が。

このレンズはNikonやCanon用もあるので、なぜペンタックスなのかは、1か月考えてわかりませんでした。ダ・ヴィンチの高山一実と川村元気の対談で、学校に取材に行く話題で「ペンタックスしか使わない男」の話が出ているのが関係しているのでしょうか?

高専やPENTAXに言及した箇所

・この構成である理由

実はSony製品に「Planar T* FE 50mm F1.4 ZA」という、近しいスペックのレンズもあるのでSonyグループの宣伝目的であれば、そちらを使うべき所です。

Sony製と劇中のレンズとで、大きく違う所は「オートフォーカスの有無」。
ここは、シンジは高機能のカメラで半ば機械任せで撮影しているのではなく「人の目に近いレンズを使い、極力マニュアル操作で撮る」ために、このチョイスになったと解釈しました。

劇中でも、文化祭のシーンではシンジが撮影前にリングを回して手動でピント合わせをする描写があり、プロが撮影している雑誌の表紙撮影のシーンでは「瞳AF機能」を使って機能をフルに使っています。
自分はアニメ、実写ともに、この映画以外でピントリングを回す音なんて聞いた事がありません

ここで聞こえる「ガリガリした音」がピントリングを回す音
美嘉の顔にチラチラする「オレンジの□」が瞳AF機能

音声ガイドだと文化祭のシーンは「自然光」という言葉が使われていてるのに対し、雑誌の方はスタジオ撮影の人口光。
この作品でこだわっている「ゆうや美嘉の毛先がグラデついて明るくなっている」がシンジの写真ではしっかり残っているのに対し、雑誌表紙の方だとフラットな色調。終盤の重要ワード「スタジオでいっぱい光を浴びる」事で、人物自身が放つ輝きが消えています。

また、αシリーズは元はソニーでなく、ミノルタのカメラです。
α7と名前が近いフィルムカメラ時代のα-7xiはオートフォーカスに非常に強いカメラで、電源を入れると、カメラを構える前から勝手にズームレンズが伸び縮みしてピント合わせを始めてしまったりと「シャッター押す」以外やる事がない、一眼レフ使ってる感が全く無いカメラだったりします。
この作品、カメラのチョイスが非常にマニアックなだけにここまで考えて「シンジはα7を使って、極力手動で撮影している」という事なのもしれませんね。

フィルムカメラ時代のα-7xi

・シャッターの切り方について

α7は今時のカメラなので、当然連写もできるのですが、学園祭の写真は機械に頼らず単写で一発勝負。

人物を撮る時に連写を使う理由の一つは「1人でも半目になったら台無し」かと思いますが、半目どころか5人全員が目を細めた笑顔MAXの奇跡の一瞬を切り取っているのは本編を見ての通り。

シンジは城のポランティアのシーンでも、木刀を構えた外人を撮る時も単写で撮っているので50mmの単焦点レンズをマニュアルで使い、これ習慣づけてるのは、確かにカメラの腕を鍛えるのにもってこいだと思います。

余談ですが、星空の写真の元素材を撮ったKAGAYA氏の写真展に行ったところ、流れ星の写真など「連続シャッターで多量に撮って、ラッキーで撮れた一枚を選ぶ」という撮り方をしていたので、一発で撮ったシンジ君は相当な運も持ち合わせてますね。

・ラストのシンジの解釈と、サチ不在の理由

ギャラリーの場面では、ギャラリーはシンジは文字メディアの取材を受けている。裏主人公でもあるシンジも、東ゆうと袂を分かった後も夢を追いつづけ「東西南北(仮)の活動のピーク(雑誌インタビューを受ける所)」までやっと追いついたのだ。

だが、テレビの取材を受けている東ゆう他、4人の現在にはまだ遠く
ラストシーンの寸前で映画、原作ともにシンジはギャラリーの外に出てしまい、同じ場所には立てない。

撮影後、バラバラの方角に歩き出す4人と、その場に留まるサチ

東ゆうに自分の夢を託してしまい、アイドルの輝きを目指さなかったサチがラストで登場しないのも同じ理由であろう。舞台挨拶でのPの話だと「単にアニメで描く尺が足りなかった」ようではあるが…

・終わりに

94分のこの映画でシンジが写真撮ったり、カメラが大写しになる場所って
トータル2、3分も無いかと思うのですが、1か月以上ずっとこれだけ妄想がはかどるトラペジウム、こんな素晴らしいカメラアニメ他にないよ!

ここまで来て未見の人は見た方がいいよッ!

・お詫び

当方、SonyのαもPENTAX Kマウントレンズも所持した事がなく、ペンタックスとαを所持しているものの「Pentax Q」と「ミノルタの方のα-7xi」なため、特にペンタックスKを愛する方とは相容れない物があったり、認識違いがあると思います。

ペンタックスに寄り添って考察して「ソニーグループの映画という縛りの中、PENTAX愛を貫き通してカメラマンとして成功をつかむストーリー」なんて方向でも、妄想捗る事間違いないので別の方の視点での考察も是非読みたいです。

おわり

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