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格差の少ない社会が成長する

『みんなのための資本論』という映画があります。
「資本論」という言葉がタイトルに含まれていますが、原題は『Inequality for All(みんなにとっての不平等)』なので、ミスリードを誘う邦題だと思います。「資本論」という言葉で連想されるマルクスや共産主義の話は、まったく出てきません。
むしろ、マルクスの『資本論』が資本主義の分析であったとおり、この映画も資本主義社会の問題を語っています。その意味では、正しい邦題と言えなくもありませんが、共産主義を連想して嫌悪感を持つ人がいたら、それは間違いです。

登場するのは、アメリカのクリントン政権で労働長官を務めた経済学者、ロバート・ライシュ。この作品は、彼がカリフォルニア大学で行った授業をもとに制作されたドキュメンタリーです。

なぜ新自由主義で経済が停滞するのか

現在、日本の経済が深刻な停滞の中にあることは、もはや誰にも否定できない事実です。かつて安倍政権では、経済停滞の事実を否認するため、統計の改ざんまで行ったのですが、現実は冷酷です。

この経済停滞を招いたのは、言うまでもなく「アベノミクス」に代表される「新自由主義」政策です。「ネオリベラリズム」とも呼ばれますが、市場の様々な規制を緩和して、自由にビジネスを行わせることで、経済は成長する、という理屈です。
規制を緩和したり、大企業や富裕層に有利な税制にしたりすれば、ビジネスが活性化する。その下で働く中間層や低所得層の労働者は、その「おこぼれ」が「トリクルダウン」として回ってくる、というのが安倍政権と、取り巻きの御用学者による言い分でした。

しかし、当たり前ですが、そんなことは決して起きないのです。
そのことは、これまでの日本経済で十分に証明されました。
もうたくさんです。

格差を縮小することはなぜ重要なのか

では、富裕層への課税を重くしてしまったら、富裕層がお金を使わなくなって、経済は停滞するでしょうか。
しません。

富裕層は巨額の利益を得ても、それを労働者に配分するわけではありませんし、彼らの所得が増えた分が消費されて経済を潤すこともありません。
使い切れない金を持つ富裕層は、余裕資金を貯蓄などの形で投資に回すため、そのお金は国際金融市場に流れていくのです。

こうして富裕層は、マネーゲームに投じる資金を増やし続けることができ、その結果として物価は上がるかもしれません。しかし、中間層以下の人たちは低賃金のまま働き続け、消費市場はどんどん冷え込みます。
つまり、格差が広がり続けると同時に、どんどん物が売れなくなり、経済は停滞し続けるのです。
結果的に、富裕層のビジネスも上手くいかなくなる・・・。

『みんなのための資本論』では、大富豪の一人が「私のような金持ちに課税してほしい」と語ります。彼のビジネスは寝具の製造販売ですが、消費者である中間層が潤ってくれないと、寝具の売上は伸びないのです。
一般労働者の1000倍を稼ぐ大富豪は、1000個の枕を使うわけではありません。富裕層のお金は消費に回らないのです。

中間層は労働力でもある

格差を縮小し、中間層の教育水準や出生率を上げることは、将来の経済を支えるための、優れた労働力を生み出すことでもあります。

映画の中では、アメリカが経済的に苦しみ、日本や西ドイツが大きく成長した時期のことも描かれています。当時の日本や西ドイツは、教育水準の向上を重点政策に掲げた結果、とても優れた労働力を活用し、国際的な競争力を向上させていたのです。
現在の日本はその逆で、政府が大学に対して「自分で稼げ」と言ったり、学生への負担が大きい政策を取り続けています。
これで競争力が上がるわけがありません。

企業は利益を上げるのが仕事ですから、供給される労働力を買い叩くだけで、自分たちで教育のための投資なんかしません。
優れた労働力を生み出す教育の土台を作るのは「国の仕事」であり、そのためのお金は大企業や富裕層が負担すればいいのです。そうすれば、大企業や富裕層に、その見返りが返ってくるのです。

労働者が強くなければいけない

映画を見てもらえばいいのですが、経済成長を支えるためには、労働者が「我慢して耐える」社会ではだめなのです。
特に日本人は、「社会のために自分が我慢する」とか「会社に忠誠を尽くして文句を言わない」ことを美徳と考えがちですが、そのことが逆に社会を悪くしているのです。

労働者が苦しんで、その結果、経済全体も悪くなる。豊かになるのは、優遇されてマネーゲームに興じる富裕層や、富裕層から献金を受ける政治家・権力者だけなのです。

このドキュメンタリーは、決して過激な思想を唱えているものではありません。
NHKの「世界のドキュメンタリー」でも放送され、現在はdailymotionのサイトで見られるようです。
ぜひ、リンク先から視聴してみてください。
なお、二か国語同時再生になっていますが、左チャンネルが日本語なので、片方だけで再生するといいと思います。
BS世界のドキュメンタリー選『みんなのための資本論』

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