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「てんかん診療には自信がありません!」と、自信を持って言えるようになる不思議な本 『ねころんで読めるてんかん診療』

不思議な本である。

何が不思議かというと、てんかん診療に関する本なのに、読み終えると、

「てんかん診療には自信がありません!」

そう自信を持って言えるようになるのだ。ところが、これまた不思議なことに、「自信がない」と自信を持って言えるようになったのに、実際のてんかん診療に関しては、今までよりも安心して取り組めるようになる。

こんな珍妙な体験は初めてだ。

著者の中里先生は東北大学てんかん科の教授で、ツイッターでも精力的に情報発信されている。また、発信だけでなく、患者側からの情報も収集されており、個別に返信したり、新たな情報発信のキッカケにしたりされている。東北大学の教授であるにも関わらず、どこのウマの骨とも分からないような私の発言や質問にも応じてくださる。かなりエネルギッシュな先生である。

本書の冒頭で中里先生が、

「てんかん診療は、てんかん専門医でさえ一人で解決することは不可能」

と言い切っておられる。この言葉が、てんかん診療に携わる一般精神科医をどれほど勇気づけることか! 

それから、本書を読めば、一般医が専門医に紹介したときには、「過去の治療歴に驚いたり呆れたりすることなく」患者を暖かく迎えて精査してくださることも分かる(精神科医として他科の向精神薬の使いかたに辛辣な自分を反省……)。

てんかん治療が上手くいかないとき、自分一人で抱え込んだり、長期間にわたって粘ったりする必要なんてない。気負いすぎた善意や余計なプライドは、患者さんの人生の邪魔になるだけだ。

こうしたことを、「ねころんで読める」くらい平易に、時間さえとれれば1日かからずに読み終えるくらいコンパクトに、そして一般医の自尊心を決して傷つけることのないよう温かく解説してある。

てんかん診療に従事せざるをえない一般医には必読の書であるし、題名を略した『ねこてん』の愛称で広く普及することを願う。


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