見出し画像

今週のおすすめ本 vol.23

店舗とオンラインストアで取り扱っている本から、おすすめのタイトルを紹介するマガジン「今週のおすすめ本」。
今週は、創元社の人文書シリーズ「あいだで考える」をご紹介します。

現在9タイトルが刊行され、10月にも新刊が控えている「あいだで考える」シリーズ。その特徴と魅力をご紹介しようと思います。


手に取りやすい、学びの入口になる1冊

シリーズ「あいだで考える」とは

不確かな時代を共に生きていくために必要な
「自ら考える力」
「他者と対話する力」
「遠い世界を想像する力」
を養う多様な視点を提供する、
10代以上すべての人のための人文書のシリーズです。

特設サイトより


人文書というのは、哲学・思想、心理、宗教、歴史、社会、教育学といったジャンルの総称ですが、全体的にどうしてもとっつきにくい印象があります。しかし、人文書で扱うテーマはどれもが自分が生きる社会と深く関わるものであり、そこで得た学びは、生きていく上での糧となったり、困難な状況の助けとなってくれる可能性を秘めています。

「あいだで考える」には、手に取りたくなるブックデザイン、美しい装画、章ごとに整理された構成、中学校以上で学ぶ漢字にはルビを振るといった様々な工夫が施されていて、「学んでみたい」という気持ちを優しく後押ししてくれる1冊になっています。

最初に引用した特設サイトで紹介されている「あいだで考える」シリーズの特徴のなかで、個人的に特に良いなと思っているのが、”「正解のない問い」を考える”というところ。これは人文書というジャンルを読むうえでは前提条件のようなものなので、常に意識しておくことが重要だと思います。
立ち位置、視点を変えることで、それまで当たり前だと思っていたものは覆され、ものの見え方は全く異なってきます。ふたつのもののあいだ、あわいに漂いながら考えることを大切にしているのが伝わる「あいだで考える」というタイトルも、とても素晴らしいと思います。


既刊の紹介

せっかくなので、これまでに発売されているタイトルを一冊ずつご紹介していきます。

◎自分疲れ ココロとカラダのあいだ | 頭木弘樹

一生付き合っていく、自分自身の心と身体。好き、嫌いに関わらず、自分が自分でいることに馴染めない、疲れてしまうといった違和感について考える一冊です。
著者は、20代の頃に潰瘍性大腸炎という難病にかかり、ままならない身体と向き合ってきた経験を持つ頭木弘樹さん。装画は、ドイツでの移住生活を綴ったエッセイコミック「ベルリンうわの空」などで人気の香山哲さんです。


◎SNSの哲学 リアルとオンラインのあいだ | 戸谷洋志

スマートフォンの普及とともに、私たちの生活と深く関わる、「もうひとつの現実世界」となったSNS。なぜ人はSNSを使って画像やテキストを投稿し、誰かから承認されたいと思うのか。そうった哲学的な問いについて考える一冊です。著者の戸谷洋志さんは哲学、倫理学の研究者。装画は、一枚のイラストから物語を作る「貝がら千話」などの制作をされているモノ・ホーミーさんが手がけています。


◎ことばの白地図を歩く | 奈倉有里

世界中に数多くある、まだ知らない国の言語。いまではスマートフォンで自動翻訳ツールなんてものまで出ていますが、異なるルーツから生まれたことばを、母国語に翻訳するということは、さながら魔法のようなものかもしれません。
ロシア文学の研究と翻訳を仕事にしている奈倉有里さんが考える、翻訳の世界の魅力とその難しさ、葛藤などについて綴られた一冊。絵本のイラストなどを手がける小林マキさんが装画を担当しています。


◎風をとおすレッスン 人と人のあいだ | 田中真知

中東やアフリカへの旅の経験から、他者との関係、距離、つながりについて考える一冊。自分と他者とのあいだの心地よい距離を掴んで、「風をとおす」ことがテーマです。装画は絵本作家のnakabanさん。


◎根っからの悪人っているの? 被害と加害のあいだ | 坂上香

著者の坂上香さんは、受刑者の更生をテーマにしたドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」の監督。
映画を観た学生たちと、映画に登場する当事者も交えた対話を通して、被害者が加害者を、加害者が被害者を「わかる」ことは出来るのかを考えます。
モノトーンの切絵のようなイラストは、丹野杏香さんが手がけています。


◎能力で人を分けなくなる日 いのちと価値のあいだ | 最首悟

人にはみな違いがあって、できることとできないことがある。しかし、求められていることができない、能力がない人間は生きている価値がないと思わされるような場面が、今の社会にはあまりにも多いように思います。

著者の最首悟さんの娘さんは、重度の障害者です。目が見えなくても、しゃべれなくても、自分にはない良いものをもっていると、共に生きながら最首さんは思います。人と人とが寄り添いあい、それぞれの命を大事に思いながら生きるには、どうすれば良いのか。対話を通じて考えます。装画はイラストレーターの中井敦子さん。


◎ハマれないまま、生きてます こどもとおとなのあいだ | 栗田隆子

男らしさ、女らしさ、子供らしさ、大人らしさ。平均的で、常識的であること、「ふつう」であることを求められる場面は、社会生活のなかで多々あります。でも、本当は「ふつう」なんてないんだと思います。世間に蔓延る実体のない「らしさ」像に振り回されず、自分に正直に生きるには、どうすれば良いのでしょうか。

著者の栗田隆子さんは、世の中に「ハマれない」ことに長年苦しみ続けて、一時は自ら命を絶つことまで試みました。本書には、子どもでいることも、大人になることもできず、それでも足掻きながら生きてきた半生について、赤裸々に綴られています。装画は絵本作家のミロコマチコさんです。


◎ホームレスでいること 見えるものと見えないもののあいだ | いちむらみさこ

ダースレイダーが作曲した「はねたハネタ」という曲があります(サブスクだと寺尾紗穂さんのカバーバージョンが聴けます)。歌詞がストーリー仕立てになっていて、青年がおじさんを車ではねてしまい、「これで自分も前科者だ」と嘆いていたら、そのおじさんはホームレスで、戸籍のない人間をはねても罪に問われず無罪放免、おじさんは病院で至れり尽くせりの生活ができて喜んでいる、という内容です。
ホームレスという存在は、社会のなかで「見えないもの」「いないもの」として扱われているということをシニカルに表現した歌詞だと思います。

著者のいちむらみさこさんは、ブルーテントの村に20年以上に渡って暮らし続けている、ホームレスの当事者です。社会の中で抑圧されて、寝食を得るためにあまりにも多くのものを犠牲にしなければいけないことが我慢できなくなった結果、テント村に希望を見出し、ほかの住民たちと助け合いながら生活しています。本書には、執筆やアーティスト活動など、社会との接点も持ちながら、ホームレスとして日々過ごすいちむらさんが、これまでのことや日々の生活のなかで感じた思いについて綴られています。自ら装画も手がけています。


◎隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ | 斎藤真理子

音楽、映画、文学など、韓国カルチャーは日本でも随分身近なものになりました。残念ながら僕自身は、韓国カルチャーにグッと惹かれるような出会いがまだなく、韓国語に触れる機会もあまりなかったのですが、本書はそんな人にとっても、韓国語の魅力を知るきっかけになるんじゃないかと思います。

43年前に初めてハングルを習い、未知の記号が音と意味を伴ったとき、何か見えない膜を破ってちがう空気の満ちる領域へ入ったような気がした。
近いところから聞こえてくる知らない音。
一歩踏みだせば手の届くところで揺れている文字の連なり。
それは未知の世界を開いてくれるだけでなく、自分の中の何かを揺るがし、清新なものを連れてくる。ハングルが読めるようになることは、世界の謎の端が解けることだが、その謎が自分自身に濃厚にからんでくる。

序に代えて より

知らない国の言葉に初めて触れたときの興奮が伝わってくる文章です。韓国語と日本語は、似ている部分と全く違う部分がある。翻訳者として2つの言語を行き来しながら感じた、様々なことが本書には綴られています。
発音や文字といった言語としての要素だけでなく、朝鮮半島と日本の複雑な背景について知ることも、韓国を理解するためには欠かすことはできません。2つの国の歴史や文化に触れながら、異なる言葉のあいだを行き来する。隣りにあって、近いようで遠い、似ているようで違う、韓国と日本という国について考える1冊です。
装画は、「小指」名義での漫画やエッセイなど多彩に活躍する小林沙織さんが担当しています。



今回は、創元社の「あいだで考える」シリーズをご紹介しました。
取り上げた本は、店頭、オンラインストアで販売しています。在庫数は限られているため、売り切れの際はご容赦ください。
本の取り置きや、在庫がない本の取り寄せも承りますので、お気軽にお申し付けください。それではまた次回。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?