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今週のおすすめ本 vol.18

店舗とオンラインストアで取り扱っている本から、おすすめのタイトルを紹介するマガジン「今週のおすすめ本」。

今回は、青木真兵さんの『武器としての土着思考』をご紹介します。

「土着思考」という聞き慣れない言葉と、荒廃した都市で闘うレスラーが描かれた表紙。この謎めいた本についてご紹介していきます。


「土着思考」とは何か?

「土着」という言葉には、「先祖代々その土地に住んでいること」といった意味がありますが、青木さんの言う「土着」は独自の意味合いを持っています。

・・・生き物である自分とシステムとしての社会の間にあるギャップに気付き、いかにその両者の折り合いをつけながら生きていくのか。こういう関心に基づく生き方を「土着する」と呼んでいるのです。

はじめに より

現代社会で生きるうえでは、「資本の原理」と無関係でいることはほぼ不可能です。世の中にあるものやサービスのほとんどが「商品」として存在していて、貨幣との交換でしかそれを得ることができない。
そういった「資本の原理」が支配する社会に息苦しさを感じている人は多いと思います。しかし、働かずには、お金を稼がずには生きていくことができない。そこで、現代社会のシステムを甘受し我慢し続けたり、逆に完全に逃避してしまうのではなく、「資本の原理」とは別の原理が働く「もう一つの世界=社会の外」にも身を置き、相互に行き来しながら自分にとっての「ちょうどよい」を見つけ、身につけること。それが「土着思考」の意図するところなのです。


2つの原理を闘わせ続ける

現代社会には様々な問題があり、その多くが、あまりに極端な経済成長至上主義によって引き起こされています。では、目指すべき未来は「資本の原理」を打倒した先にあるのでしょうか。「金さえあれば何でもできる」という社会は確かに健全ではありませんが、貨幣経済がもたらしてくれた恩恵も多くある、というのも事実です。いくら現代社会が生きづらいといっても、いまから貨幣制度を完全に廃止して物々交換で経済を流通させていこう、というのはさすがに無理がありますし、良い方法とも思えません。
「土着思考」では、現代社会の内と外を行き来します。それによって、価値観に揺さぶりをかけていくのです。

現代社会の内側で思考しているうちは、すでに価値が決まっているもの(商品)の縮小再生産を繰り返すだけです。一度社会の外に出て、物質自体の価値を自分の感性によって吟味すること。それはつまり価値判断を他者に委ねるのではなく、自らの手に取り戻すことを意味します。自分にしか判断がつかないから、その物質の価値を見いださねばならないし、他者にていねいに説明する必要も出てくる。

本文より

何が自分にとって「ちょうどよい」のか。それは一度議論して結論を出してしまえば良いというものではなく、考え続けることで常に揺らぎ動いていく。
こういった思考をするためには、2つの原理を闘わせる必要があります。そういった対立構造を自分の中に持ち続けることをプロレスに見立てたのが、表紙のイラストの意味するところになります。


私設図書館を開くという、「ちょうどよい」を見つけるための実践

青木さんは、奈良の山村で「ルチャ・リブロ」という私設図書館を開いています。スペイン語で「プロレス」を意味する「ルチャ・リブレ」と、フランス語で「本」を意味する「リブロ」をかけ合わせたユニークなネーミングです。
私設図書館には、青木さん夫婦の私蔵の本が並べられており、誰でも読むことができます。入館料やレンタル料など一切の料金はかかりません。つまり、金銭的な利益はまったく発生しないということになります。

こういった場所をなぜ開いているのか、青木さんはよく尋ねられるとのことですが、本書を読むと、「ルチャ・リブロ」は青木さんにとって「土着思考」のための、「社会の外」としての「もう一つの場所」なのだということがよく分かります。

ちなみに、「ルチャ・リブロ」については、青木海青子さんの『不完全な司書』にくわしく綴られていますので、合わせておすすめです。


今回は、『武器としての土着思考』をご紹介しました。記事でふれた内容についてはほぼ導入部分のみで、「土着思考」を用いていかに社会を生き抜いていくかについて、まだまだたくさんのことが綴られています。気になった方はぜひ本書を手に取ってみてくさい。

取り上げた本は、店頭、オンラインストアで販売しています。在庫数は限られているため、売り切れの際はご容赦ください。
本の取り置きや、在庫がない本の取り寄せも承りますので、お気軽にお申し付けください。それではまた次回。


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