見出し画像

1988年の芥川賞受賞作「スティル・ライフ」はケンタウロス。

猛暑のなか出かけた、夕方の出張買取が本日のメインイベントでした。段ボール4箱分の文庫本を運び、走り、いい仕事をしたと納得しました。現在、走ることが店主の楽しみのひとつです。ただ、それ以外は何もなく、一日を通して古本屋は閑散としていました。

そして今日は第98回の芥川賞の受賞作「スティル・ライフ」を読みました。出張買取で仕入れてきた本の仕分けをしているときに、たまたま【芥川賞受賞作】という言葉が目に入って気になりました。最近、芥川龍之介の小説を読んでいる店主としては、1988年に芥川賞を受賞した小説はどんな小説だろうかと興味津々で読みました。

この小説を読んでいて、すぐにケンタウロスを想像しました。ケンタウロスとはギリシャ神話に出てくる頭が人間で下半身が馬という生き物で、よく考えたら極めて変な生き物です。

ではなぜ店主がンタウロスをイメージしたかというと、この小説の書き出しや小説のメインストリームが至って村上春樹風だったからです。冒頭のバーのシーンは特にそう。登場人物が語るセリフまでが村上春樹風でした。

しかし、後半になると雰囲気が変わります。物語が動き出し、最後の謎解きと機械的な比喩表現は池澤夏樹本人の雰囲気を感じます。そこからの話は理路整然としています。

そしてここが特徴的なのですが、読書後に謎が残されていないという点にも注目です。最近の小説は謎を残すことが1つのテクニックとなっていますが、この小説は推理小説のようにスッキリと解決して終わります。この辺がきっと池澤夏樹さんのテイストなのでしょう。

つまり、前半と文体は村上春樹。だから攻撃力もバカ高い。しかし、物語の『起承転結』の『転』から話を走らせて、最後を『結』で締めくくる。その後半部分は池澤夏樹。それを店主はケンタウロスのようだと例えたのです。ふたりの共作と言われても信じてしまいそうでした。もちろんそれは小説の感想で、評価自体は小ぶりながらもしっかりとしているという感じでした。

ただ、少し残念だったことがあります。それは時代のギャップを感じたこと。バーで語るシーンやそのセリフに昭和感を感じてしまいました。令和の時代に生きる我々としては馴染めない場面でしたね。

とはいえ、それ以外はさすが芥川賞を受賞しただけはあると思いました。ただ、やっぱり感動が無かったので…少し物足りなさも感じます。もう少し読者をドキドキさせるような娯楽性があると、現代でも読まれるような小説になっていたのではないかと思いました。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?