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異文化理解の窓口としての『イングリッシュネス』


英語を学ぶ目的は人それぞれですが、多くの学習者にとって、英語はコミュニケーションのツールであると同時に、新しい世界を知るための鍵でもあります。異文化理解は言語習得に不可欠な要素ですが、いざ文化の違いを学ぼうとすると、どこから始めればいいのか戸惑ってしまうものです。そんな英語学習者にぜひおすすめしたいのが、ケイト・フォックス著『イングリッシュネス』です。

本書は、社会人類学者である著者が、自国民の行動様式を客観的に観察・分析することで、「イギリス人らしさ」の正体に迫ろうと試みた意欲作です。天候の話から切り出す会話のパターン、控えめな自己主張、皮肉を好むユーモアのセンスなど、私たちがイギリス人のステレオタイプと思い浮かべる特徴の数々が、いかにして形作られ、どのような社会的機能を果たしているのかを解き明かしていきます。

言語の根底にある価値観を知る

著者は本書の序章で、文化とは「行動のパターン、慣習、生き方、思想、信条、価値観の総計」であると定義しています。つまり私たちが無意識のうちに従っている「暗黙のルール」こそが、文化の本質なのです。英語表現の背後にある文化的背景を理解することは、言葉の使い方を学ぶ以上に重要といえるでしょう。

「ルール」ということばを使うとき ここが大事な点だが わたしが意味するのは、イギリス人が常に変わらず特定の特徴を示すということではなく、その特徴が注目に値する、ないし重要だと認識されるほど 般的だということである。

本書では、パブでの振る舞いや競馬場での会話といった具体的な場面を取り上げながら、そこに見られる「イングリッシュネス」を言語化していきます。日本人の感覚からすると奇妙に感じられる習慣も、イギリス人にとっては当たり前の「常識」なのだと気づかされます。このように行動の根底にある価値観を知ることは、コミュニケーションにおける齟齬を防ぐだけでなく、言語の多様性を尊重する姿勢を養ううえでも役立つはずです。

異文化との付き合い方を考える

とはいえ、自分とは異なる価値観を受け入れることは容易ではありません。私自身、礼儀正しさの裏に潜む皮肉や、含みのあるユーモアに戸惑うことがしばしばあります。「控えめ」と「意気地なし」の線引きも文化によってずれがあるように感じます。

ただ、相手の文化を理解しようと努力する過程で、私たち自身の無意識の思い込みに気づくこともあるのではないでしょうか。自文化を相対化し、他者の視点から見つめ直すことは、グローバル社会を生きる私たちに求められる重要なスキルだと思います。その意味で、本書はまさに異文化との付き合い方を考えるためのヒントに満ちているといえます。

わたしの関心は、イングリッシュネスを欠点も含めてありのままに理解することである。自分の研究対象である部族が、そのメンバーや隣人にどのような態度をとるべきかを教えたり、説いたりするのは人類学者の仕事ではない。

文化の違いを前にしたとき、私たちは思わず優劣をつけたくなります。しかし、「正解」を求めるのではなく、あくまでも理解者の立場に徹することが大切なのだと、著者の姿勢から学びました。

おわりに

グローバル化の進展によって、英語の重要性はますます高まっていくでしょう。機械翻訳が発達した現代においてさえ、言葉の微妙なニュアンスを掴むには、文化的背景の理解が不可欠です。

異文化コミュニケーションの第一歩は、「自分たちとは違う」ということを認識することから始まります。『イングリッシュネス』を読み解くことは、私たち自身のコミュニケーションについて見つめ直す機会にもなるはずです。

英国の「ナショナル・トレジャー」とも称される本書を手に取ってみませんか。知的好奇心を思う存分刺激してくれる一冊となるでしょう。イギリス英語の学習はもちろん、英語を通して世界と繋がりたいすべての人に、ぜひおすすめしたい良書です。

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