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レティシア書房店長日誌

スザンヌ・ベガ✖️カーソン・マッカラーズ
 
 
スザンヌ・ベガは、1959年サンタモニカ生まれのシンガーソングライターです。9歳の時に詩を書き始め、14歳で作詞を始めます。コロンビア大学で英文学を学ぶ傍ら小さな劇場で歌い、1984年大手レコード会社と契約。翌85年に「街角の詩」を発表して、自分を内省的に見つめる歌で一躍注目を浴びました。その後も何枚もアルバムを発表して、シンガーソングライターとして揺るぎないポジションを獲得しました。
 2011年に、女流作家カーソン・マッカラーズの生涯をテーマにオフ・ブロードウェイでおこなわれた舞台『Carson McCullers Talks About Love』で、カーソン役を演じます。2016年、この舞台をきっかけに生まれたアルバムをリリースしました。それが「ラブァー、ビラウド」(国内盤CD中古1600円)です。

 スザンヌは10代の頃にマッカラーズの短編を読んで以来、彼女のことをリスペクトしてきたのですが、どうしてもその役をやりたいと決意して舞台に立ったのです。
 1917年生まれのマッカラーズ。処女小説「心は孤独な狩人」は、アメリカ南部を舞台に、社会に順応できない人間や排除された人間の魂の孤独を探究する作品でした。私は、1968年「愛すれど心さびしく」と言うタイトルで映画化された作品を、淀川長治さんの「日曜洋画劇場」(TV)で観ました。とても感動して、マッカラーズの名前を覚えたのです。もちろん原作にもトライしました。確か英文学者の河野一郎が翻訳した新潮文庫版を手にしたのですが、これが難しく途中で放棄してしまいました。南部を舞台にした重厚に重なり合う人間ドラマに、ついていけなかったのだと思います。
 2020年、村上春樹の新訳が発表されました。春樹自身、初めてこの作品を読んだ時、深く心を打たれたと「訳者あとがき」に書いています。(古書1950円)
 

 「マッカラーズの小説世界は、言うなれば個人的に閉じた世界でもある。それはマッカラーズによって語られ、描写されるマッカラーズ自身の心象世界だ。そこに出てくる人々は、それぞれの異様性を背負い、それぞれの痛みに耐え、欠点や欠落を抱えつつ、それぞれの出口を懸命に探し求めている。しかし多くの場合、その出口は見当たらない。そしてその『出口のなさ』にこそ、実はマッカラーズの小説世界の真骨頂みたいなものがある。その世界における夜は暗くて長い。とはいえ夜はもちろんいつか明けて、朝が訪れる。しかし朝は来ても、そこで明確な解決策が示されるわけではない。人々はそのような宙ぶらりんの状態に置かれたまま、新たな夜の到来を待つことになる。僅かな ー しかしきらりと小さく光る ー 希望を持って。」
 まことにマッカラーズ文学を表現した文章です。その文学に登場するキャラクターを歌詞とサウンドで表現するのは、スザンヌにとっても大きな挑戦だったと思います。彼女の舞台も見ていないし、本作の歌詞を吟味したわけでもありません。(CD には対訳が付いてますが、老眼には字が小さい!)しかし、ピアノ・ギターだけでなく様々な楽器を用いて、文学者の世界を音楽で表現した意欲作であり、彼女独特のナイーブな叙情性もたっぷり聞かせてくれるアルバムでした。マッカラーズのことを知らなくても、心に沁みこむ音楽であると思います。

●レティシア書房ギャラリー案内
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
村松圭一郎「人類学者へのレンズ」(1760円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
森田真生「センス・オブ・ワンダー」(1980円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
上野千鶴子「八ヶ岳南麓から」(1760円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
「たやさないvol.4」(1100円)

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