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レティシア書房店長日誌

小山田浩子「かえるはかえる」

 東京三軒茶屋で本屋&ギャラリー&カフェ『twililight』を営み、出版社として、安達茉莉子『世界に放りこまれた』、レアード・ハント/柴田元幸訳『インディアナ、インディアナ』などの本を出しているのがtwililightです。
ここから、小山田浩子のエッセイ集「パイプの中のかえる」(1760円)が2022年に出ました。人気の本で、今回その第二集「かえるはかえる」(1980円)が出ました。

 小山田は、私も好きな小説家で、ちょっと特異な世界を独特の文体で描いてきました。彼女の世界に魅了されている人は当店でもかなりおられます。一方、エッセイは、ごくオーソドックスな文体で、日々の暮らしのことや生活の中で感じたことが簡潔に綴られています。
 「匂いや湿気によって今日から秋だ、と思う日がある。毎年ある。いくらカレンダーをめくり店頭のみょうがが消え梨が並び彼岸花が咲きお彼岸のおはぎを食べようと全然秋になったと感じられない中で突然、鼻や肌や全身が今日から秋ッ、と浮き立つようなこの感じ、春も同じだ。毎年突然今日から春だ、と思う日があって、でもなぜか今日から夏だ、冬だ、とは感じたことがない。いつの間にかすっかり夏になって冬になっていて、なんというか渦中に至ってびっくりしているような、理由はわからないし私だけかもしれない。」こういう季節の感じ方って面白い。
 著者は現在、広島で暮らしています。「我々がいま地面だと思っているのは地表の死体やがれきを土で埋めた分高くなっている地面なのだと説明を受けた時の感覚が忘れられない。」原爆で死んだ多くの人の死体の上を歩いているという事実。原爆ドームを見上げても、足下を見る人はほとんどいない。
 「原爆投下前は人々が参拝する寺があり商店があり家々の並ぶ街だった場所に作られた平和公園を訪れた国内外の人々のほとんどが原爆ドームを見上げるだろう。しかしその中のどれくらいの人が地を見下ろしかつて地表だった位置との高低差を思い、各国首脳が歩いた(注:広島サミット)その下に修学旅行生が立ち止まるその下にいままさに自分が踏んでいるその下に人々の遺体が埋まっていることを思うだろう。それは別に隠された真実でもなんでもない。想像の果てとかでもなく普通に当たり前に単なる事実として、その骨が私の祖母のだってあなたのだって不思議ではないこと、地球上のあらゆる場所において、核兵器の使用にも所持にも理はない。戦争反対、絶対反対。」と強いメッセージを送ります。
 毎日の普通を見つめながら、平和について考えさせられるエッセイです。本書はTwililighr web magazineで2023年4月から9月までの連載に、書き下ろし2編を加えたものです。


●レティシア書房ギャラリー案内
11/15(水)〜26(日)「風展2023・いつもひつじと」(フェルト・毛糸)
11/29(水)〜 12/10(日)「中村ちとせ銅版画展」
12/13(水)〜 24(日)「加藤ますみZUS作品展」(フェルト)
12/26(火)〜 1/7(日)「平山奈美作品展」(木版画)

●年始年末営業案内
年内は28日(木)まで *なお26日(火)は営業いたします。
年始は1月5日(金)より通常営業いたします

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