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レティシア書房店長日記

湯川豊「終わりのない旅 星野道夫インタビュー」

 星野道夫の本は全て読んだ!と思っていたのですが、これは未読でした。
元文芸春秋社の編集者であり作家でもある湯川豊が、1994年、星野が帰国していた際に行われた二回のインタビューを収録したものです。(新刊1650円)

「このインタヴューの第一部では、アラスカという土地での、人間を含むさまざまな生き物の生と死の姿が語られている。第二部では、星野がアラスカにひかれ、のめりこんでいった経緯が時間を追って語られたうえで、もう一度彼がアラスカで出会った人びとの生と死の姿に話題が戻ってくる。」と、「はじめに」で本書の内容を説明しています。星野ファンなら、あぁその話なら知っている、というのも出てきますが、初めて星野道夫に出会う人には新鮮に迫ってくると思います。
 動物写真家として、アラスカを愛し、カリブーの群れを追いかけ、広大な大地で繰り広げられる生と死のドラマを語ってきた星野の原点が、長い付き合いの友人である湯川に語られていきます。
 彼がなぜアラスカに憧れたのか。彼が大学1年の時、貧乏旅行で信州を旅した時、農家に泊めてもらいます。「夕食の前にそのへんにあった新聞を読んでいたら、どういう記事だったかはもう覚えていないのですが、アラスカの絵地図が載っていた。動物とか鳥とかエスキモーなんかの絵がたくさん入っているような地図でした。それを見て、自分が探している場所がそこにあるような気がした。直感で、自分は絶対にここへ行くことになるな、と思いました。そして、この気持ちを憶えておこうとも思いました。」その気持ちがアラスカへ、そして写真家への道を開いたのかもしれません。こういうのを天の啓示と呼ぶのでしょう。
 星野のエッセイに心動かされた人は数多くいます。彼の言葉の何が人を動かすのか、著者はこう書いています。
「星野のエッセイは、自分自身を含めて、人間をつねに自然のなかにおいて語ろうとしている。人間は自然の一部であるという視点がいつもどこかに働いている。それはまさに、あらゆるネイチャー・ライティングに共通する基本的な姿勢である。 広大なアラスカの地で、星野の足跡は年ごとに広がり、彼の写真はその広がりにそって深まっていった。エッセイもまた、というよりそれ以上に、変遷を示しながら深まっていった。彼はカメラのレンズを通して『見る人』でもあったが、同時にアラスカの体験を言葉によって『考える人』でもあった。行動は思索につながり、思索は次の行動をうながした。そして自然と人間についての思想が彼のなかでかたちづくられた。彼はそれを寡黙な、しかしやわらかい文体で語った。」
「寡黙な、しかしやわらかい文体」、これほど星野のエッセイを的確に表現したものはないと思います。不慮の死からすでに28年が経ちました。しかし彼の言葉が、これからも多くの人々に受け継がれてゆくことは間違いはありません。


●レティシア書房ギャラリー案内
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展

⭐️新入荷ご案内
モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
「なnD10](1100円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)

蟹の親子「脳のお休み」

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