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レティシア書房店長日誌

池澤夏樹&畠山直哉著「丹後 古代史の遠いこだま」

 「『たいざ』という音から『間人』という漢字二文字をぱっと思い浮かべることができる人は、いったい世の中にどのくらいいるのだろう。」
はーい、私は読み方も場所もよく知っています。京都丹後半島の丹後市にある町、小学生だった頃に何度か海水浴に行った場所なのです。遠浅の美しい海岸を今でも覚えています。
 「2022年春の京都で、NPO法人TOMORROWの徳田佳代さんから『たいざで写真を撮りませんか?」と誘われたとき、僕はそれがどこのことなの分からなかった。」と、著者の一人である写真家の畠山直哉は「あとがきのような謝辞」で語っています。

 聖徳太子の母・間人皇后(はしうどこうごう)が蘇我氏と物部氏との争乱を避けて丹後に身を寄せ、当地を去る時、自らの名をこの地に贈ったものの、人々は「はしうど」と呼び捨てにすることを畏れ多く思い、皇后がこの地から退座(たいざ)したのにちなみ間人を「たいざ」と読み替えた、との伝承が残っているのです。
 「しかし、じっさい間人の地面に立てば、そこには聖徳太子の時代なんかよりも、なお昔のことを物語る景色が広がっている。」と畠山は書きます。
そして彼が撮影した作品を池澤夏樹が手に取る機会があり、その時、池澤が「いっしょに丹後に行きましょう。僕はそこで何かを書きたい。たぶん詩。」と言ったことから出来上がった本なのだそうです。(新刊4620円)
親交のある二人が、羽衣伝説、古事記、数々の神話、民話等の古代の記憶が何層にもわたって蓄積されている、間人・丹後に感応して生まれた叙事詩写真集を作り上げました。
 二人が訪れたのは竹野神社、浦島神社、銚子山古墳等です。「この地はそのまま古代への回廊である。中世以降現代に至る浅ましい愚行の潮に洗われていない。それは『古事記』や『風土記』など古典への回路だということでもある。」と池澤は、この地の印象を語ります。海水浴しか頭になかった子どもには、この地がそんな場所だったとは知りませんでした。
 各地に残る「羽衣伝説」。当地に残る「丹後国風土記」では地上に残された天女と男に婚姻はなく、最後に天に帰る場面もありません。
「奈具の里に至りてやうやく慰められて安住を得 後に神としてここに祀られにけり その名をトヨウケビヒとなむ呼ばる 」という詩「漆 私は聞いた」を、池澤はこの本に収めています。
 古代への橋渡しをするような詩篇と、奥丹後の様々な表情を捉えた写真をゆっくりとお楽しみください。

レティシア書房ギャラリー案内
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
中野徹「この座右の銘が効きまっせ」(1760円)
青山ゆみこ「元気じゃないけど、悪くない」(2090円)

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