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レティシア書房店長日記

塚本晋也監督 映画「ほかげ」
 
 
およそ、観客から代金を頂戴して劇場で映画を見せる以上は、全く救いのない映画を作る監督は、個人的には二流だと思っています。金出して、最後まで暗い気分にさせるな!と。だからと言って、能天気なハッピーエンドだけで終わる映画も、時間返してって気分ですが。希望のない世界を描いていても、かすかな光を観客に感じさせるような映画が一流ということでしょうか。
 戦争直後、焼け野原同然の町に暮らす一人の女性を描いた塚本晋也監督最新作「ほかげ」は、一級品でした。女は、 半分焼けたままの小さな居酒屋で一人で暮らしています。表向きは居酒屋風の店を営業しながら、体を売って生計を立てていました。どうして生きていったらいいのかわからず、絶望の中で、その日その日を過ごしています。そんな時、 闇市で食べ物を盗んで暮らしていた少年が、盗み目的で女の居酒屋に侵入します。最初は追い出されるのですが、そのうちになんとなく居着くようになります。そこへ、外地から戻ってきた兵士が一晩の快楽を求めて来るのですが、やはり居着いてしまいます。三人とも、一人で生きるにはあまりに辛い過去を持って耐えていたのですが、映画は、ここまで全くぼろ家の外に出ません。戦争の影、傷跡、貧困を見事に演出していて、暗い。ひたすら暗い。

 映画の後半は、この少年が映画の中心になっていきます。カメラは一気に外へと飛び出し、少年と行動を共にする片腕の不自由な男をとらえます。彼は上官の命令で、戦時中に極めて残忍な行為をしており、そのトラウマで狂気の一歩手前にいます。戦争のむごたらしいシーンは全くないのですが、監督はミニマルな空間に、戦争と狂わされてゆく人間の姿を見すえます。
 一方女は梅毒に感染し、ここにいてはいけないと少年を追い出します。ラスト、カメラは闇市の向こうに消えてゆく少年を見つめます。闇市のごった返した人波の向こうに去ってゆく少年を、追いかけることなく、じっと情景を凝視して物語は終わります。この子には生き抜いていって欲しい。どんな人生が待ち受けているとしても、そこにはわずかながら希望がある。そう観客に思わせる監督の手腕は、やはり一流でした。
 主人公の女を演じているのは趣里。朝のNHK連続ドラマ「ブギウギ」の、天真爛漫な歌手とは同じ人とは思えない迫真の演技です。毎朝、朝ドラを見るたびに同じの人なの?と思ってしまいます。

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