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レティシア書房店長日誌

永井玲衣著「水中の哲学者たち」(晶文社)
 
 1991年東京生まれの著者は、哲学研究の傍ら小学校から高等学校、企業、寺社、美術館、自治体等で「哲学対話」を幅広く行なっています。哲学対話?なんだか、難しそうですが、これが全く違うんです。
 例えば、とあるPTAの会で哲学対話をやった時、何を話していいかわからない様子のお母さん方に向かって、何かお子さんのことで悩んでいること、怒っていることは?と問いかけたところ、「あーっ、うちの子も約束守れないの。やだあ、うちの子もなの、この間もね.....。」と怒涛のごとく話が出てきます。そして著者はこう書きます。「固い卵がパカッと割れて、テツガクの誕生である。ちなみにその日のテーマは『なぜ約束は守らないといけないのか』になった。楽しかった。」
 

新刊1760円

 「哲学対話は場所を選ばない。 (中略) 自分が思ったことを、自分の言葉で素直に言えばいい。それを馬鹿にするひとは誰もいない。だからといって言い放しでもない。誰かの考えと違っていたら、なんで違っているのか、どういうところが違っているのか、本当に違っているのか、考える。あなたがその主張をすることによって、どんな前提をもっているのかを考える。考えて、考えて、いつの間にか対話の時間は終わる。」
 どんな話題でも、それぞれが意見をいい、そういう考えもあるのかと考え、どこか自分と違うかを考えたり、あるいはどうしてそんな思考ができたのかを考える。つまりは”考える”ことが哲学の始まりなのです。
 でも、哲学用語って難しそう。「存在と時間」、「差異と反復」等々、もう結構という気分にもなります。しかし、著者はこう考えます。「専門用語とは、物事を円滑に進めるための、ただの道具だ。」だから、「まず、用語の難しさで哲学に壁を感じているひとがいたら、専門用語は、ギャルが『精神が非常に高揚している状態』を『テンアゲ』で済ませるみたいなものだと理解してほしい。その程度のことだ。」
 時には哲学対話で、「小学校のときの給食の味噌汁に入っている、ちょっとした煮込まれすぎてどろっとなったわかめ」が主題になったりするらしいのです。「普段の意識にのぼらず、どうでもいいとされて、議論のテーマにもならず、取るに足らないとされているもの。そんなことについても、考えることがゆるされる。あのときは、細やかな断片だけど、なぜか共有できているどろどろのわかめを思い出してみんな笑った。そう、その時の哲学対話は『不気味』というテーマだったのだ。」
 なんで、それが不気味なん?という言葉が、その会では飛び交ったのでしょう。参加者の不気味なものについて、差異があることを知り、そこから対話が始まり、考えてゆく。著者曰く「日常は、哲学の起爆剤で満ちている」
 「哲学」という言葉に大きな壁を巡らしている(私を含めた)みなさん、この本をご一読ください!笑わされて、驚かされて、ちょっと「哲学」が身近になります。
 著者のこんな文章を心に留めておきたいと思います。
 「わたしたちは急いでいる。わたしたちは速度を求めている。もっと速く、もっともっと速く、より多く、より豊かに、より意義深く。より豊穣な実りを。より膨大な成果を。だが哲学対話は『急ぐな』と言う。『立ち止まれ』とささやき『問い直せ』と命じる。 そして、哲学対話は『待て』とも言う。」
 著者の新刊も入荷しました。「世界の適切な保存」(1870円/講談社)

⭐️夏期休暇のお知らせ 8月5日(月)〜9日(金)休業いたします

●レティシア書房ギャラリー案内
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市
8/10(土)〜8/18(日) 待賢ブックセンター古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色』やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展

⭐️入荷ご案内
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
「中川敬とリクオにきく 音楽と政治と暮らし」(500円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
「てくり33号」(770円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)

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