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レティシア書房店長日誌

松岡宏大「ひとりみんぱく」
 
 「ひとりみんぱく」って何? 著者は、「地球の歩き方」などでインド、アフリカなどを取材、編集をしてきた人です。本書のタイトルについて、こう説明しています。
「『みんぱく』とは大阪の万博記念公園内、太陽の塔のとなりに建つ『国立民族学博物館』の愛称である。本書の『ひとりみんぱく』というタイトルであるが、これは初めて僕が『みんぱく』を訪れた際、『うちにもあるな…..』という感想を抱いたことに由来する。」
 仕事柄、世界中を旅してきた著者は、行く先々でその土地の文物を集めていたのです。それらは世間的価値とは無縁のものですが、それぞれに愛着のあるものばかりなのです。それらを写真に収め、簡単な解説と旅の思いなどを綴ったものが、この本です。(古書2800円)
 60~61ページにかけて「アフリカ地図」の写真が載っています。「アデン(イエメン)の旧仏領事館の壁に貼られていた地図。ドイツK.VSpruner社が発行する1855年のアフリカ地図の複製品と思われる」とキャプションがついています。しかし、この地図は著者にとってただの複製地図ではありません。20歳のとき、著者は小林秀雄訳の「ランボー詩集」を持って各地を放浪していました。旅から8年後、仕事でアデンを訪れることになります。この地は、詩人を辞めて貿易商になったランボーが、後年、暮らしていました。ランボーが勤めていた商社だったというビルを見つけましたが、改装工事中のビルの中は、一面瓦礫が散らばっていました。その壁に色あせた古い地図が貼ってあるのを見つけた著者は、地図を持って帰りました。ランボーが生きていた時代の貴重なものでもなく、ただの印刷物にすぎなかったのですが、「しかし、僕にとってはとても価値のある地図だ。道に迷ったとき、僕は今でもときどきこの地図を引っぱりだしては眺めている。」

右はスウェーデンの馬・左はインドの馬

 沢山のモノたちが、本の中で静かに佇んでいます。写真家でもある著者は、黒い背景に見事にそれらを浮かび上がらせています。ただ、眺めているだけで楽しい。スウェーデンの幸福を運んでくれる木製の馬「ダーラヘスト」(122p)や、日本の「招き猫」や、ケニアの「ライオン土人形」など、どれも素朴で愛らしい形をしています。
 特にいいなぁと思ったのはオーストラリアの「鳥の木彫」です。(85p)
「先住民族アポリジナルによる鳥の木像。胴体に魚やヘビが刻まれており水鳥をかたどったものだろう」と書かれています。触ってみたいと思いました。

オーストラリアの鳥

 「もしかしたら『物の本』だと思っている人もいるかもしれないが、これは『旅の本』だ。物が好きであることは否定しないが、僕は物を求めて旅をしたことはない。旅で出会った物を蒐集しているだけだ。」と著者は書いています。世界中を旅して理解したのは、「人間がみなほぼ同じ肉体と頭脳を持ち、生と死ーすなわち時間から逃れられないという宿命を背負っている以上、気候や地形、時代、それに伴う文化の違いはあっても、その手によって創り出される造形の水底には同じものが流れているということだ。」そう思って、著者が集めたモノたちを見ると、世界と自分がつながるような気がします。
 ずっと眺めていても全く飽きない良い本です。

レティシア書房ギャラリー案内
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
中野徹「この座右の銘が効きまっせ」(1760円)
青山ゆみこ「元気じゃないけど、悪くない」(2090円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)

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