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レティシア書房店長日誌

田口ランディ「癒しの森」

 「私は見栄っぱりの意地っぱりである。たとえ自分の専門分野ではなくても、自分に知らないことがあるのは気に入らない.......という生意気なタイプだ。よく言えば向上心があり、悪く言えば知ったかぶりである。」と自分を説明する著者が、「自然通」を気取りタカピーな気分で屋久島に行って、その本当の魅力に取り憑かれ、毎年屋久島に通いつめ、ガイドの教えに従ってこの島の奥深くに入ってゆくというエッセイです。(古書700円)

 「3年にわたって私は一人で屋久島に通いつめた。長期滞在をしてYNAC(屋久島野外活動総合センター)の面々と海や山に出かけていった。そうするうちに一人で自然に入ってゆくことを覚えた。たった一人で海や森を散策するようになって初めて、自分の目で自然の営みを見つめることができるようになったような気がする。」こうして、屋久杉だけがクローズアップされて、観光地化してゆくこの島の本当の魅力へと一歩づつ近づいてゆくのです。屋久島を語る本でありながら、私たちが自然の中に入ってゆく態度、方法を教えてくれる本です。
「不思議だなあ。 ほんとうに不思議だ。だってだあれもいないのに、こんな深い森に一人っきりなのにちっとも怖くない。怖いどころか、なんというあたたかさ、やさしさだろう。うれしくなって、気がついたら私は歌っていたっけ.......。」屋久島の自然が迎え入れてくれた瞬間ですね。
 そして、著者は理解します。「この島全体が、植物の島。人間とは違う進化を選んだ生き物の楽園。そうなんだ、この島のどこかに宝物があるわけじゃない。 屋久島そのものが、生命の島なんだよ。」
 この島で、著者は一人の女性に出会います。彼女はここで彼氏と落ち合う予定で来たのですが、どうも彼には他に女性がいるとかでグダグダの関係らしいのですが、彼女の方も煮え切らないようです。しかも彼女は、彼氏と会うためだけに来ただけで屋久島のことを別に好きというわけではありません。そんな彼女に、著者は自然の中で遊ぶ方法を伝授していき、「リゾート女」だった彼女を、なんと「素潜りで貝を捕まえて食べる女」に変身させてしまったのです。「自然に目覚めた女って、あんまり男を必要としなくなるんだよ。孤独であることの楽しさを。世界から教えてもらうから。」と著者は書きます。
 カヌーの面白さに目覚めた著者は、「川の上に浮かんで、水鳥の視点で景色を見る。海中で魚の視点で海を見る、シーカヤックで波間から陸を見る。パラセーリングで鳥の視点で地上を見る。すると、ああ、私って今まで本当に1ヶ所からしか世界を見てこなかったんだなあって思う。 自分の背の高さを越えた視点、自分が立てる場所でない視点、そういう視点を経験できることってとても少ない。でも、違う視点で世界を見ると、なんだか第三の目が開く感じがする。脳を冷たい水にバシャッとつけて頭蓋骨に戻したような、そんな気分だ。」
 きっと違う視点を持つのはとても大切なことで、それを教えてくれる本書は、とても内容の濃いものだと思います。


●レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」



⭐️入荷ご案内
モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
「古本屋台2」(サイン入り/1650円)
RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」
(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)

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