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レティシア書房店長日誌

田尻久子「これはわたしの物語」(新刊1925円)
 
 
熊本にある「橙書店」を営む田尻久子さんの新刊は、もっと本が読みたくなる楽しいエッセイだと思います。
「いま、目の前に本を読んでいる人がいる。本を読んでいる姿というのは、見ていて気持ちが良い。ちなみに、読んでいる人が特に美しいというわけではない。ただの中年のおっさんだ。私が生きてきた50年の間、読む人の姿は変わらず身近にあった。 百年後、街の本屋さんの姿は変わるかもしれないし、消滅するのかもしれない。でも、人が本を読んでいる姿の美しさというのは、どんな形であれ、存在するのではないだろうか。」
 読書する人の姿を美しいと言ったのは、彼女が初めてだっただろうか。とても素敵な文章で始まります。


 当店もですが、多分どこもフェミニズム関連の本の動きが良くなっています。「橙書店」も同じらしく、カウンターでこんな風に考えます。
「残念ながら関心が薄いように見えるのが50代以降の男性。でも幸い、若いお客さんは性別に関係なく買ってくださる。そのことにとても希望を感じる。お会計の時に、うれしくて思わず余計なことを言いそうになるが、おばちゃんのお節介はやめようと思いとどまる。」これは「書店からはじまるフェミニズム」というタイトルの中の文章ですが、最後はこんな風に締めくくられています。
「私たちは性別に関係なく、ひとりひとり力を持っている。本が、その力を誰かに封印させないための手助けになることもあると信じて並べている。」
 
 前半は、本やお店に関するエッセイ、そして後半が書評です。このブログで紹介したものや、店に並べている本が次々と登場します。川上未映子「夏物語」、赤染晶子「じゃむパンの日」、ハワード・ノーマン「ノーザン・ライツ」、武田砂鉄「今日拾った言葉たち」、斎藤陽道「声めぐり」、ショーン・タン「セミ」、シーグリッド・ヌーネス「友だち」、平松洋子「父のビスコ」等々、書き出したらきりがありませんが、どの書評も的を得た表現で、その本の本質を紹介してあります。私の書いたものとは、もうトホホというくらい雲泥の差でした。
 「本書が店の書棚と同じような役割を果たせたらいいなと思う。改めて読むと自分の文章のつたなさが目に付き、すっかり書き直してしまいたい気持ちを抑えながら手直しをしたのだが、紹介したそれぞれの本を再読したいような気持ちにもなった。文章はつたなくとも、すすめた本を読んでほしいという気持ちは確かなのだ」と「あとがき」に書かれています。ブログに紹介した本を手にとってほしいというこの気持ちだけは、私も一緒です。

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