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レティシア書房店長日誌

小池陽慈「世界のいまを知り未来をつくる 評論文読書案内」
 
 これは社会評論系の読書案内というより、現代社会に山積する諸問題をどう捉えて、個人がこの社会と、あるいは世界と対峙してゆくかを学ぶ本です。もちろん各章には、専門性の高い本を読むための良質の本が紹介されています。でもそれ以上に、ちょいと取っつきにくい抽象的言葉、例えば国家、民主主義、全体主義、ポピュリズム、ナショナリズム、資本主義等の大事な言葉の、意味するところを解説しつつ、私たち一般人が今何を学ぶべきかを問う本だと、私は思います。(古書1350円)
 

 「評論文のより良き読み手となることは、僕たち自身が、この社会や時代を未来へと切り拓いてゆく一個の主体となることに等しいのです。」と著者は「はじめに」で書いています。専門性の高い本を読み解くことは難しくても、日々飛び込んでくるメディアの言葉をいかに解釈するか、欺瞞に惑わされなくするか、を解説してくれます。
 この本を詳しく紹介しようとすると、とりとめのない恐ろしい量の文章になりそうなので、一つだけ。第4章「声を奪われた人々の声」というタイトルで様々な本が紹介されていますが、その中に、辺見庸著「たんば色の覚書 私たちの日常」が取り上げられます。まず小池はオウム真理教事件の首謀者たちの死刑執行に焦点を当てます。長くなりますが引用します。
 「麻原彰晃や元教団幹部の死刑囚たちへの刑の執行を報道するニュースや、あるいはそれを伝えるネット記事のコメント欄などを読んでいくうちに、僕はやはり、死刑というものについて ー いや、とりわけ彼ら元オウム真理教の死刑囚たちへの刑の執行や報道のありかたについて、相当の違和感 ー あけすけに言ってしまえば、気持ち悪さを感じざるを得ませんでした。死が、消費されている。エンターテイメントとして。」死刑執行の情報がリアルタイムで随時更新される報道。まるでショーの様に演出され、「劇場型の死刑、見世物としての死刑。はっきり、そう感じたのです。」
 さらにネット空間では、「明らかに、ある種の”祝祭的な空間”として、非常に不謹慎きわまりない言い方ではありますが、”盛りあがって”いました。悪を殺せ。彼らに死を。」という論調が幅を利かせていたことを危惧します。
 著者は死刑制度に反対なのですが、同時に当然だと思う感情も持ち合わせています。自分の中で答えが見つかるのかわからない。しかし、
「やはりあの”祝祭的な盛りあがり”は異様だと思う。それを煽るような報道のあり方も、おかしいと思う。 そして、僕が、いや、僕たちが死刑というものについて、もっと冷静に、誠実に考えていくためには、つまりはあのよ うな扇動やムードに飲み込まれないようにするためには、何より、死刑というもののリアルを、少しでも知ることが必要なのではないか」という思いに至ります。
 そんな時に、辺見庸の「たんば色の覚書 私たちに日常」を思い出して、読み返しました。そこには辺見が会った死刑囚との対話を通してリアルな死刑が描かれていたのです。
 辺見は2006年のクリスマスに四人の死刑囚の死刑が執行されたことに言及して、こう書いています。「自分の犯罪を悔いている、足も立たなくなった老人を強いて立たせて、首に絞縄をつけるという行為。これを強いられ、せざるをえない刑務官ら。彼らの存在と悲劇も私たちの平穏な日々の襞のなかに埋まっているのです。」
 私たちを取り巻く諸問題の本質を知るために、本書を手に取ってください。日々、思っていたことが整理されていくかもしれません。

●レティシア書房ギャラリー案内
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」I push and go
よしだるみ新作絵本出版記念原画展
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
森田真生「センス・オブ・ワンダー」(1980円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
「たやさないvol.4」(1100円)
「26歳計画」(再入荷2200円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)

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