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レティシア書房 店長日誌

山内マリコ「選んだ孤独はよい孤独」

 山内マリコ作品は、映画にもなった「あのこは貴族」、ユーミンの自伝的小説「すべてのことはメッセージ 小説ユーミン」を読みましたが、どちらも面白い小説でした。彼女は地方に生きる女性のリアルな姿をすくい上げる物語が多いのですが、今回ご紹介する短編集「選んだ孤独はよい孤独」(古本800円)は、男の窮屈さを様々な角度から描いていきます。


 「あるカップルの別れの理由」は、同棲していた彼女が「あたしが出ていきたいの」とある日突然出ていきます。それから4年、いまだに住んでいるマンションには彼女が置いていった電化製品がそのままになっています。
「配置はすべて同じだが、部屋全体がうす暗く、どんより淀みきって、あらゆる場所がベタベタしていた。窓を開けるのさえ億劫で、空気の入れ替えすらままならない。」
 そして、「彼はいまだに、自分のどこがどうダメだったのか、別れた直接の原因はなんだったのか、まったくピンときていなかった。彼女はどうして出ていったのか。それは永遠に謎のままだ。」おいおい?と外野から声をかけたくなるのですが、この男はそのままズルズルと行きそうなのです。

 そういう男ばかりが登場するかと思いきや、「おれが逃がしてやる」に登場する一見さえないサラリーマンの館林さんはユニークでした。新入社員の部下に向かってこんなことを言います。
「社会人になると、毎日は忙しくなるけど、人生って意味では、暇なんだ。仕事は人生の、便利な暇つぶし。マッチポンプみたいなもんだ。仕事しないと金は稼げない、金がないと生活できない。だから仕事さえしていれば生活できるし、間が持つ。でも、仕事してるだけだから、すぐに飽きてくる。そこそこいい年になると、かなり飽きてくる。」仕事生きがい論みたいなビジネス書信奉者からみたら、ハァッ?というご意見ですね。
 そして続けて、
「もしお前が、ずるずる青春を引きずっているだけで、別に無難な人生でいいと心の底から思っているなら、根性入れ替えさせてこのクソつまんねえサラリーマン生活に一刻も早く染まれるようおれは指導するけど、もしなんかやりたいことがあって、なのに無理して諦めようとしてるんだったら、おれはそれを止めるぞ。」というなり、「いま、逃げろ」と、新入歓迎会の場所から放り出します。彼は、それを聞いて刑事ドラマの主人公のごとく、がむしゃらに走り出します。たった1日のサラリーマン生活。さて、その結果は?森絵都風の、ちょっとひねったエンディングが待っています。


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