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レティシア書房店長日誌

岡真理・小山哲・藤原辰史「中学生から知りたい パレスチナのこと」 
 

 現代アラブ文学専門家の岡真理、西洋史特にポーランド史が専門の小山哲、そして現代史特に食と農が専門の藤原辰史の三人が、今のパレスチナをめぐる問題の本質を語った好著です。(ミシマ社・新刊1980円)
 

 「私たちの歴史的無知や忘却につけこんで、ガザのジェノサイド、そしてパレスチナの民族浄化を、宗教対立や土地争い、あるいは『イスラームのテロ組織』対イスラエルの『自衛』の戦争に還元しようとする言説に抗して、私たちは問題の根源をしっかりと見据えなければならない。そのために私たちが今、必要としているのは、私たちの知をかたちづくってきた西洋中心主義的で、かつ地域ごとに分断された歴史に代わる新しい世界史、近代五百年の歴史を通してグローバルに形成された『歴史の地脈』によって、私たちが生きるこの現代世界を理解するための『グローバル・ヒストリー』であるということです。」
 「はじめに」書かれている、岡真理のこの文章がズバリ本書を説明しています。イスラエルとパレスチナって複雑な歴史的問題があるんじゃないの、と思っている方、ぜひ本書をお読みください。イスラエル=ホロコーストの犠牲者という図式から、まずは離れること。そして、
 「今の日本人の多くが、仏教徒であろうが、キリスト教徒であろうが、ムスリムであろうが、二千年前にこの列島に居住していた縄文人の、またその後朝鮮半島からやってきた渡来人の末裔であるように、パレスチナ人は、二千年前、パレスチナの地にいたユダヤ人の末裔です。」という事実を覚えておきましょう。
 でも、この両国の問題って遠い海の彼方の話でしょう、と思っている方にも本書をお勧めします。実は、我が国も今のイスラエルと同じようなことをかつてしていたのです。先の大戦で日本は中国に進出して、傀儡国家「満州国」を創設しました。そして政府のでっち上げ宣伝で、多くの農民が未開の地を切り拓くために海を渡りましたが、現地には、きれいな田んぼが用意されていました。
 「朝鮮半島からの移民たち、場合によっては日本の植民地主義のなかで追われた人びとが土地を切り拓いていたからです。その土地を二束三文で買い叩き、武力で奪い、日本の貧農を入植させるということをやりました。そのとき、中国人や朝鮮人は武器を持って抵抗、開拓村を襲撃しました。そんな彼らを日本人は『土匪』『共匪』よ呼び、彼らの暴力が憎いからといって、銃を持って入植を進めていった。これはパレスチナでユダヤ人がやっていることと重なります。」
 三人の学者によって、これまで隠されてきた、あるいは報道されてこなかったイスラエルとパレスチナの問題が語られていきます。ナチスによって迫害されたユダヤ人の国家イスラエルは、戦後ドイツに賠償を求め、ドイツは謝罪し、賠償金を払ったということを知っていても、その裏でイスラエルはドイツから武器を買っていたという事実は知らない。メディアが一方的に流す情報に抗い、武力を振るわれてきた側に立つためにも、ぜひお読みいただきたい一冊です。
 蛇足ながら、忌野清志郎は、今の戦争が起こる遥か前にディランの「風に吹かれて」のカバーの中で、こんな歌詞を入れています。
 「どれだけ子供が飢えたなら、何かが出来るの?」(RCサクセションCD『カバーズ』1500円)
 人々を飢えさせ殺すという戦争の手段は、ナチスもやっていたし、満州国でも行われていたし、今のパレスチナでも起こっていることです。

●レティシア書房ギャラリー案内
8/10(土)〜8/18(日) 待賢ブックセンター古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色」やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)


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