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レティシア書房店長日誌

ヨルゴス・ランティモス監督「哀れなるものたち」

 舞台はビクトリア女王時代と思われる(近未来のような要素もあり、時代を確定させないようなセットデザインなので惑わされる)イギリス。顔中に手術の後のあるバクスター博士(ウィリアム・デフォーのフェイスメイクに目を奪われます)の住み込み助手として雇われたマックスは、博士の自宅で美しい女性ベラ(エマ・ストーン)に出会います。大人に見えるのですが、行動や言動は赤ちゃんのように幼い不思議で魅力的な女性。実は、ベラは自殺をした現場から、博士にギリギリのところを救われます。妊娠していた彼女は、損傷した自身の脳の代わりに、胎児の脳を博士が移植し、再生された人だったのです。




 「フランケンシュタイン」に登場する人造人間の物語を、新たに作り直した物語で、映画は、性に目覚めたベラが、女好きで放蕩者のダンカンとともに世界を巡る奇想天外な冒険物語を描いていきます。極端に観客の視線を歪ませる広角レンズの使用によって、美しい異様な世界へと導かれていきます。そして、ビクトリア時代のようなSFのようなセットの中に放り込まれて、途方にくれながらベラの成長物語を追いかけることになります。
 パリへと向かう豪華客船で、裕福でちょっと風変わりな老婦人マーサに出会います。彼女は知的な会話を仕掛けながら、ベラに書物を勧めます。欲望と快楽を追い求めることだけだったベラは、知性の扉を自ら開けることで、さらに変化していきます。やがて、ベラは読書で世界を広げ、自分の感情に気づき、さらに他人の感情も見出してゆきます。未知の世界を知り、どんどん成長して魅力的になってゆくベラに対して、セックス だけが目的で女を捨てるつもりだったダンカンは、本気モードになってゆき、彼女を自分のものとして独占しようとします。しかし、知的向上心を持ち自由になっていくベラに比べて、男性の持つ既得権にしがみついてる感のあるダンカンは置いてきぼりを喰らいます。
 ここからベラと、自分を従属させようとする者たちとの戦いの物語が始まります。ベラがかつて生きていた時の夫が登場してきて、無理やり自分の屋敷に幽閉してしまいます。軍人である夫は、暴力で人を支配しようとし、ベラに対してもとんでもないことを実行しようとします。女性に対する考え方も、唾棄すべきようなものばかり。最後は哀れな姿で溜飲が下がります。
 それにしても、ベラを演じたエマ・ストーンが凄い!オゾマシイ、下品なと顔を背けられる方もあるかもしれませんが、私は笑いながら、いいぞ、もっとやれ!と応援していました。傑作です。

●レティシア書房ギャラリー案内
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展

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