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不眠は実存への拒絶

下山しながら空を見上げた。
自然はありとあらゆる感傷を排し、あるがままの目の前の大地が僕の心を揺さぶり続ける──先週、『ガザ 自由への闘い』というドキュメンタリー映画を観た。

同じ空の下、平々凡々とコーヒーを淹れて読んでいる本を置き、あるいは、散歩し、あるいは、快適な部屋で感傷に浸る極楽を生きるひともいれば、明日生きている保証などどこにもない地獄を生きるひともいる。
同じ地球という場でもまったく異なる空間が点在した世界だ。
馬鹿げている。
批判することすら避けて心地の良いものだけを見聞きし、物欲を剥き出しにした空虚な自我にしがみつくことを充実と呼び、地獄を生きるひとたちの現実は他人事でしかなく、何ら動こうとしない。
眠っているあいだだけが自己の存在に立ち返れるとしたら、極楽のひとたちは常に眠っているのだろう──目を覚ますことなく。

不眠は実存への拒絶。


ピレネーの麓で
2024/02/10



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