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シブヤで目覚めて

著者 アンナ・ツィマ
訳 阿部賢一/須藤輝彦
出版 河出書房新社 2021/04/30初版 2021/06/30 2刷

はじめに

 チェコと言えば?
そうです、僕が大好きになってしまったミラン・クンデラの祖国です。本書もその流れで手に取るに至った。つまり、あまり明るいイメージがなかった。本書を読むまでは。

少しハルキストの気がある主人公の女の子ヤナの成長記録にも見えるし、読書記録にも見えるキッチュとは程遠い、どことなく青空を突き抜けた感じのする世界の物語だった。

あらすじと感想

 日本文化が好きになってしまった女の子、主人公ヤナの妄想は止まるところを知らず、遂には渋谷で彼女の妄想が炸裂する。 

日本でまだ言葉に力があった時代の文学者たちが好きだったり、三船や仲代がタイプだったりとかなり渋めの路線のヤナ。 
かと言えば、村上春樹が好きなヤナ。
無名文学者川下清丸の謎を追いかけるヤナ。 
シブヤで恋するヤナ。 
ヤナを支える仲代とクリーマたち。

そんな彼女の日本への想いとその情熱はとても愛らしい。 最後の結末も中々面白い。 

 序盤で出てくる短歌が好みだったのと、その短歌がテーマの伏線のようにも思えた。 僕の好きなクンデラも序盤から出てきてフフっとなった箇所が所々にあった。

 読書家で自分の小説を書きたいと言っていた女の子ヤナはその後自分のための自分の物語を作り始めたのだろうか?
自分の小説を自分のために書きたい、という切望が少し垣間見れた気がする。

余談だが、クリーマぶっちゃけ都合よく扱われていた感もなくはない😭

おわりにー2021年最後の読書感想文

 プラハの春のイメージで僕の妄想の中のチェコは少し薄暗かったり、また、シニカルで神経質な人々が多いイメージを勝手に持っていました。ヤナのお陰で、それらを良い意味で壊された気がしなくもありません。

 そしてチェコといえば、冒頭でも述べたとおり、僕の中では、プラハの春とミラン・クンデラでした。僕はクンデラを通して、彼の祖国の歴史や近年のチェコのことに興味が沸き、少しずつチェコの歴史や文化を読んでいました。
そのような中で、元チェコ大統領ヴァーツラフ・ハヴェルの民衆たちに誠実で力強い、決意表明のような、「力なき者たちの力」を読んだり、旧チェコスロバキア大統領アレクサンドル・ドプチェクの「プラハの春」、またもっと遡って、スラヴ民族の歴史の入門としてビザンツ帝国の歴史本を読んだりしてみました。

これらを知るに至ったのは、SNSでフォローさせて頂いている訳者の須藤さんから教えて頂いたお陰です。ありがとうございます。

 僕は日本文学も海外文学も少し古めの物語や幻想的なものか社会派的な物語が好みだというのもあり、ここ最近の作家の方々のものに慣れ親しんでいませんでした。SNSで流れてくる感想を見て、日本人作家はわずかに最近のものも読むようになったくらいです。
 もしも、本書がチェコ文学でなかったり、訳者が須藤さんではなかったら、きっと手に取る機会もなかったかもしれません。そうした意味で、本書を購入した際、新しいジャンルチャレンジ的な感覚に新鮮さを感じられたことと共に、今年、僕の読書的な観点から好奇心を刺激していただけた須藤さんに感謝致します。

 そして、今年から数年ぶりに読書を再開し、様々な読書好きな方々と繋がれました。
ありがとうございます♪

皆さま良いお年をお迎えください。

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