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逆さまゲーム

著者 アントニオ・タブッキ
訳 須賀敦子

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そして、こう言うんだ。
フェルナンド・ペソアの翻訳が出ました。
『逆さまゲーム』アントニオ・タブッキ p23
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1978年の夏ごろ着想されたタブッキ初期の短編いくつかと1981-1985の間に書かれた短編いくつかが合わされた短編集。

表題作『逆さまゲーム』はペソア研究者らしいタブッキの30ページほどの短編。

昨日、ふと再読したくなって読んでいた。

逆さまゲームはタブッキが序文に書いているとおり、自伝的側面を持っている。
また、作家としての成熟と彼独特のスタイルが確立されたのが、この作品だともタブッキは言っていた。

あらすじ


主人公がスペインのマドリードからポルトガルのリスボンへ、ある故人のために列車で向かう。その最中、その旅と彼の記憶をめぐる旅も始まる。
故人とのリスボンやペソアの想い出や故人から聞かされたアルゼンチンの子どもたちの他愛もない遊び「逆さまゲーム」。

テーマ

記憶と裏側からものごとを見るということ、そしてペソアとリスボン。

いかにもタブッキらしい。

30ページの中で蜃気楼のように現れて、最後にはすべてが合わさる。

やっぱり、俺はタブッキが大好きだ。

彼ほど俺の感性にしっくりくる作家は他にはいない。

アルヴァロ・デ・カンポス

物語の中の故人が主人公に暗唱するアルヴァロ・デ・カンポス(ペソアの異名)Lisbon revisitedは『ポルトガルの海』フェルナンド・ペソア 彩流社にも収録されている。

少しペソアの話になるが、
ペソアはいくつもの異名を使い分けていた。

アルヴァロ・デ・カンポスとリカルド・レイスはカイエロの弟子
というのがペソアの中での設定で、カンポスは割と人間の実存を内向きに見つめる詩人だ。
(これら3人全部ペソアなのだが)

この逆さまゲームではそのアルヴァロ・デ・カンポスが主に出てくる。

タブッキを読んでいたら、いつの間にか、自分が物語とシャッフルされている感覚になるのとぴったりくる。

俺が死ぬほどタブッキを好きなのはそうした感覚に陥れるからでもある。

蜃気楼の向こう側の虚構にいる俺が真で、そこからこちら側の自分を見つめる。
なんと言えばいいのかわからない。

結局はペソアが言い切ってしまっていることに繋がるのだけれど。

そして、俺はいつも思うのだけれど、こうしてタブッキの感想を書くのは少しナンセンスな気がする。

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この世界でわたしたちは
わたしたちの書きとめるものを
だれかが推敲をかさねて書きあげるための
ペンとインクにすぎないのか…
時にうかぶこともある
アルヴァロ・デ・カンポス

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私を知るものはこの瞬間よりほかなにもなく
私の憶い出さえ無だ 私は感じる
現在(いま)の私と過去の私が
それぞれ異なる夢であるのを
リカルド・レイス

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