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ホテルローヤル 極私的批評

生涯に一度もラブホテルに入った事が無い人は果たしてどれほど居るのだろう。

娯楽の少ない田舎で育った。この映画の舞台となった道東の釧路市だ。高校生になる頃に同級生らはパチンコや麻雀などのギャンブルに手を出す、他校の女子とよろしくやる、喧嘩に明け暮れる、ひっそりと都会へ上京する。などして、それぞれがそれぞれにちょうど良い居場所を見つけて、必死に大人ぶっていた。自分も勿論その一人だった。他の高校に比べて郊外にある、陸の孤島の様な学校に通っていたので、男子達は必死に他校の女子との繋がりを求めていた。しかも学科によっては女子が極端に少なく、私のクラスの場合だと女子生徒はたった2人。制服も無く私服の少し特殊な学校だった。地方から入学し、備付けの寮で暮らす生徒も多いものだから尚更男子達は生まれ育った街では無い土地の見慣れぬ制服に身を包んだ女子達にロマンを燃やしていた。

ある日比較的仲の良い級友が他校の女子と初めてラブホテルに行って来たと私に打ち明けてくれた。男前で流行にも詳しい彼の隣の女の子たちはいつも違っていた。それが具体的にラブホテルについて考えた初めての瞬間だと思う。16歳。街の外れに行けばどこにでもラブホテルがあったので目にはしていたし、成長するにつれてそれがどんな場所なのかも理解していたけれど、同級生がもうラブホテルに入ってセックスしてるのか。と思うとなんだか不思議な感覚だった。まだ髭もうっすらとしか生えてなく、母親のお腹から出てきて、たった16年しか経っていないのに。

大人になってからも「アプリで知り合った子と〇〇ホテルでしてきてさ〜」だの「東京にライブ見に行ったんだけど全然宿空いてなくてラブホ泊まってきたわ」だの他人の口からほいほい出てくるラブホとやらは一体どんな空間なんだろう。と想像と期待が膨らんでいったまま20代を過ぎてもラブホテルに足を踏み入れる事は無かった。

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ホテルローヤルは桜木紫乃の直木賞受賞作。北海道・釧路湿原を望むラブホテルを舞台にした7編の連作を、現代と過去を交錯させた一つの物語として紡ぎ出したのは、『百円の恋』『全裸監督』などを手掛けた今や売れっ子、武正晴監督。主演は波瑠

過去と現代での演じ分けがスムーズでナイスなキャスティングでした。年齢不詳な役者が多い印象。主人公の波瑠がラブホの娘である事や両親への気持ちなど抑圧された感情を言葉ではなく佇まいや全身で表現をしていて貫禄でした。ラストの子供の様にイノセントな雰囲気をまといつつ、自らの気持ちに正面から向き合い自発的に行動する大人な女性へ変化していくのも素敵でした。あの白いワンピースは男としてグッときつつも、すらっとした身体付きに神聖なオーラもあって神秘的なシーンでした。物語の先で彼女はきっと幸せになるでしょう。

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安田顕も落ちぶれた雰囲気がピッタリで釧路によく居る港町特有の荒くれ者感があって良かったです。うちのおじいちゃんも若い頃あんな感じだった。パンチパーマ当ててトラックで渡鳥して。酔っ払ってたまに暴れて。ヤスケン、妻に出ていかれ普段はしない客室清掃を1人でしている背中が切なかったなぁ。

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あとはやっぱ外せないのが伊藤沙莉and岡山天音っすね!なんでも興味あって、よく喋ってローファーが臭い女の子はクラスに居そう感あって良かった。商業高校か西高。童顔だからまじでJKで通用するぜ沙莉ちゃん。

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伊藤沙莉さんの演技ってどこか動物的だなーと思ってスクリーンを眺めていました。無駄がない。このコンビのエピソードのラストもよくある話ではあるのですが妙にリアルに心に入り込んで印象深いです。実際釧路で似たような噂話を沢山聞いてきたのもあるかな。居場所を無くし、さいはてにたどり着いた。ホテルで豪勢に寿司とスパカツ食べてんの無敵感あって切ないけど良かったな。

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あとは松山ケンイチ!良い役でしたねぇ。きっちり仕事が出来てしかもウィットに富んでる大人の男性。こんな風になりたいもんすね。多分奥さんスカーレットヨハンソンとか吉永小百合みたいな伝説級に良い女性なんでしょうね、じゃなきゃ絶対あぁはならない!!!自分ならグッズ全部使って朝まで寝ない!!!そうです馬鹿です!!!これじゃいつまでたってもマツケンには成れない!!!

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ハナミズキや僕らがいたなど釧路舞台の映画や小説は沢山ありますが、個人的には本作が今の所釧路の作品として1番の推し作品です。(氷点も好き!)ただちょっとこってこての方言や山親父なんかのローカルCMの繰り返しのやり過ぎ感はあったけどね。まぁご愛嬌っ。

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酒屋の彼も釧路に居そうなアンちゃん感で◎




以下、映画と関係の無い個人的な意見

昨今、何かとニュースになって大々的に芸能人の不倫やらスキャンダルが世間を賑わせますよね。まぁ騒ぎたい人たちは勝手にどうぞって感じなんでいいんですが、昔から思っていたんですけど。

不倫を叩き過ぎじゃ有りませんか?

不倫が良いとか文化とかそんな阿保な事が言いたい訳では無くてですね。不倫って恐らく歴史が始まって以来、延々と人々の間で無くならずに続いてきたものなんですよ。しかもそれを題材に古典と称される芸術がごまんとある。落語映画小説演劇、無限にあって現代もまだ増えている。色恋沙汰と戦争から生まれた芸術だらけだな結局。とちくちく感じてきました。「結局人間、男と女、やる事は一つよ」なんてセリフが劇中にありましたがその通りだと思います。人間はいつまで経っても動物のままなんですよ。隣の芝生は永遠にペールブルーに見えるし、秘密や背徳の濃厚な味に魅せられっぱなしでいくら自分の子供に迷惑かけようが、会社でのポストが危うくなろうが不貞行為する人間は居なくならないんですよ。馬鹿みたいに叩くくらいなら、法律で厳罰化するか多夫多妻を認知・実現していくとかもっと建設的な考えや行動が必要だと思います。自分や周囲の身に全く不倫に関わらずに人生を終えるなんて不可能だとも思います。それぐらい世の中に溢れかえってる。

生きているとタイミング一つで人生全てが変わってしまう事が多々あると思います。あの時、あの子とすれ違わなければ、こうして2人仲良く夫婦として暮らしては居なかっただろう。その瞬間にどうして離れられなかった。家族も子供も居るけれど、他に選択肢が見えなかった。とかね。結構結構コケッコーじゃないですか。好きにさせてやれば良いんですよ。不倫をした結果、社会的地位を失おうが慰謝料で借金まみれになろうが自己責任ですよ。みんな好きでしょ、自分に関係ない時の自己責任って都合の良い言葉。結局ロマンスや危険が人間は好きなんでしょうね。その事実を認めて生きていく方が遥かに健康的に私は思えます。

やむに止まれぬシチュエーションの男女がたどり着く終着点としてのラブホテル。育児と介護に追われて夫婦の営みが疎かになっているから、たまには気兼ねもなく大声で喘いで男と女に戻る為の場所。淑やかな会社の受付に手を出して、人目を偲んで週末に2人だけの時間を楽しむための密会場所。愛の宿。

実は今年初めて、頭の中にぼんやり残っていた憧れの場所、ラブホテルというものに足を踏み入れた。無人の受付でバス用品を借り、ひっそりとしていて薄暗い館内を進む間には誰ともすれ違わなかった。それを少し期待していたのだけれど。

不倫や密会だったのか、恋人との記念になのか、一夜限りの関係の為にか。

それはみなさんの想像にお任せします。



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