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釧路で初めてセルフロウリュをしてみた

小さい頃から銭湯に行くのが好きで、大人になってからも親友とは飲み会→私の家で開かれるお泊まり会→翌朝二日酔いのまま銭湯で整い→回復した身体でスパカツをカッ食らうのサイクルをよく繰り返していた。

親友と呼べるくらいの友達で地元の残っているは1人か2人になってしまって、暫くみんなで銭湯行けていないなーなんて考えていた。ここ数日天気の具合が悪く、露天風呂日和というわけにいかない雨模様だったが、微かな晴れ間にそそのかされて、一人で大喜湯昭和店へ車を飛ばした。

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久しぶりに来店すると、なにやら店内が微妙に変わっていた。お洒落ドリンクがカウンター前に設置され、店内の掲示物も「今」っぽい。高校生くらいの頃が1番ここの銭湯に足を運んでいた。当時はまだまだ出来たてだったこの銭湯もスッカリリフレッシュしている。やっぱりサウナブームは力強いんだなー。なんて思いながら入湯。入ってすぐの1番広い浴槽で一気に身体を温める。見渡すと平日の午後にも関わらずなかなか賑わっている。次は露天風呂へ。ベンチチェアーに腰掛けて、外気浴をエンジョイしているおじさんを横目に見つつ、わなわなと湧き出る狼狽を隠せなかった。

「なんか立ってる…」

いや「建ってる」か。いつも露天風呂の入り口を正面に見据えて座るのが自分の定位置なのだが、その視線の先に見慣れない小屋があるのだ。大きなガラス越しに男達が座っているのが見える。流行極まれり。サウナ室の拡張である。そりゃあサウナが近年良い感じに広まってきているのは肌で感じていたが個人的には浴槽で暖まるだけの事が殆どで、稀に気が向けば入るくらいのものだから特にこれと言って思い入れも無かったのだが、まさか慣れ親しんだ地元の銭湯にサウナ室が増設されているなんて露にも思わなかったので驚きでそのピカピカのコンテナから目が離せなかった。シナプスぱちぱち。うずうずで心臓が早まる。相対するニューサウナに入らない理由が無い。ひぇあ。

外から眺めているだけでは分からなかったのだが、なんと室内にセルフロウリュの設備が中央に鎮座している。それを囲むようにぐるりとサウナラバーたちが瞑想している。石がたっぷり詰められた筒状の塔の傍にはバケツと柄杓が置いてあり、それを真上からひと掬いかけるのだそう。壁にやり方が描かれていた。その頃の私のハートの中。

「や…や…やりてえ…!」

ウズウズハートビーツどたどた。砂時計が終わったら周りに一声掛けて水をかけるらしいのだが、その砂時計が見当たらない。無機質風なお洒落設計のため、洗練されすぎていて全然見当たらない。温度計が本来あるべき場所には15分測るだけの時計みたいだし、ヤキモキインダハウスもじもじ。(数分後にスタイリッシュな砂時計が壁面に備え付けられているのを発見)落ちきるまでにまだ10分ほどあるようで、なんとももどかしい。しかし落ちきったとて、一声掛けてロウリュろうと思っても「あ?老龍?意味わかんねぇな、ぶちころすぞ」と物騒な現代では同室の紳士に言われかねないし、必ずしも初ロウリュを達成出来る訳ではないのかと思案しながら汗を拭う。ここで一旦外気浴。雨は止んでいたが相変わらず濁ったような雲は重たげだった。眼下に見える商業高校。仲良くしていた奴らが多く、友人達の顔が思い浮かぶ。

セカンドシーズンInニューサウナ。ここからは単純にサウナを楽しむことにする。高校生くらいの孫とじいじも加わってほぼ満室な室内をなんとなしに見渡してみると、奇妙な光景。何故か一様に同じような姿勢で座って、うなだれる3人の頭にはそれぞれ青、濃緑、黄のタオル。すっぽり顔面を覆っていてジャスライカ・ハハノシキュウ。その光景も相まって、熱気溢れる室内に見ず知らずの男達が座ってただ時が過ぎていくのを待っているシチュエーションはあまりにマジックリアリズムじみているなと頬がゆるむ。

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8×8=49

そうして眺めていると砂時計がすっかり落ちきりそうな事に気がついた。誰一人口を聞かず黙々と己と向き合い、日頃の汚れ、ピュアーネスな汗を出すことに精進しているというのに誰が「ちょ、ちょっとロウリュっちゃっていいすか?」なんて声を掛けられると言うのか。などと思っていた刹那。横に座るじいじが小さな声で「よしっ」と誰にともなしに声を出し、柄杓でくんだ水をおもむろににロウリュ装置にぶっかけて砂時計をひっくり返した。

「や…や…やりやがったな…じじい」

憧憬の眼差しをじいじの背中に浴びせるのも束の間、ハハノシキュウ達が怒り狂って暴動でも起こされたら叶わんぞと彼らを盗み見るも、微動だにしない。なんだ、それで良いのかお前たち?つーか声を掛けないのが正解なのか?日本人特有の奥ゆかしい配慮なのか?などと疑問が湧き出て渦巻いて。結局は初ロウリュにこぎつけてくれてありがとうじじいの気持ちで満たされている単純な自分の心模様なのだった。ただてっきり水を掛けたら水蒸気どばどばー!室内もっくもくー!を期待していたので何も変わらねえじゃねえかと複雑な思いも生まれた。その数秒後、やたら汗が吹き出していく感覚を感じ、あれこれ、なんか暑くなってる?と思った後はジェットコースター式にドバドバと汗が止まらなくなった。傍目には変化は無かったが確実に室内の温度が上昇していく。ディスイズロウリュ。あっついぜ。たまらずに外に出て外気に裸体を晒す。バスタオル・せっけん・シャンプー・ハンドタオル、全てを忘れたためすっぽんぽんの私。風がとても気持ちいい。ほどよくお酒が身体を駆け回る感覚に似ているけど、アルコール特有の身体に負荷が掛かる重さが無いような気がする。先日見た「草の響き」という映画は、自律神経を失調した男が自身の再生の為にランニングを勧められ、走る事にのめり込んでいくという導入部分の作品だったのだが、身体を動かしたり、汗を流したりする事で心の奥から神経や調子が整っていく感覚が分かるような気がした。

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サードチャレンジonサウナハウス。ロウリュ効果もあってか室内がまばらになっていた。扉を開け、入り口付近に着席すると、開いた際に入り込んだ涼しい空気の影響か、堰を切ったように残っていた男たちが全員室外へ出て行った。すかさず心中に咲く鮮やかな花。

「歓喜インマイマインド」

しゃあー!!!!自分の手でロウリュっちゃうぞ!このやらう!石!!!覚悟しろ!!!!DEVOがライブ中に被るあの赤い帽子より大きくて、バケットヘッドが被っているケンタッキーのバーレルより小さいくらいの大きさのお洒落ステンレスバケツから水を汲んで、じゃろじょろと頂点にぶっかけた。

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うむ、やっぱりかけたては地味だ。何の変化もない。ただなんていうか充足感っていうの。全能感みたいな感じが駆け巡る。「今回のロウリュは自分一人で手掛けたんすよ、いやー大変だったけどスキルアップには必要不可欠な道のりだったんで若いうち経験しときたかったんすよね。ほんとなんか、あらざした」みたいな感じ。正直石に水を掛けた事に満足してしまってすぐ出てしまったがとても満たされた。冬手前の冷え冷えした今の空気とサウナの相性の良さに気付けて幸せだぜ。

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ひとつ疑問だったのがロウリュ装置の上の方の石。彫刻刀で傷つけたようなでこぼこの模様が付いていたのが不思議だった。画像のフタバ湯のステッカーみたく、じゃがいものような凹凸加工の石の効果についてはこれから調べてみる。帰りには最近テレビコマーシャルで見かけて気になっていた、chill outという小さな缶のソフトドリンクを飲みながら信号の少ない一本道で車をぶっ飛ばした。デヴィッドボウイのスターマンを爆音でかけてアクセルを強く踏む。伸びやかな歌声が暗雲の先にある星々に届きますように。ボウイが今も安らかでありますように。たわいもない私の未来が安らかでありますように。若い頃は想像も出来ないくらいに変わりゆく釧路のこれからもどうか平穏で、少しだけでも幸福でありますように。

全開にした窓から吹き込んでくる風を浴びながら、釧路や自分のこれからの事を考えていた。浜風でボロボロに腐敗した海沿いのマンションを眺めながら今日の昼頃嗅いだ海の匂い、そのマンションの駐車場にかつてゴザを敷いて家族で花火を見たという幼い頃のこと、外食フランチャイズの乱立の未来、身近な先輩たちの選挙を巡る活動の様子、学生時代、同級生がバンドで歌っていた「ポスとジャスコ・ポスとジャスコ・ポスとジャスコ・ファックユー」という歌詞、いつ自分はこの街に帰ってくるのか、そもそも帰ってこれるのか?という純粋な疑問、昔住んでいた家の変わらなさや、死んでしまった同級生の事、イオンの駐車場で育んだやぶれかぶれな恋の事、釧路を離れていった友人達の事。

思い出は尽きず、永遠を形成し、街も私も変わっていく。その先が明るい事を願っているよ。釧路アイラブユー。

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