ゆれる
この記事はお引越しさせるかどうか迷ったんですが、いい映画なのでやっぱり残しておこうと思います。
西川美和監督の『ゆれる』。
田舎で家業を継いだ実直な兄(香川照之)と東京でカメラマンとして成功した弟(オダキリジョー)、兄の店で働く幼なじみの智恵子の3人が渓谷へドライブに出かけ、渓谷にかかる吊橋から智恵子が落下して死んでしまいます。その時弟は2人と離れ写真を撮っていました。一旦は事故として処理されますが、兄が唐突に智恵子を自分が突き落としたと自供します。吊橋の上で本当は何が起こったのか。真相は…。
という風に書くとサスペンスのようですが、様々に揺れ動く人間の心を描いた映画です。
上手く言えないのですが…。兄は失うことで何を断ち切ろうとしたのか、何を得ようとしたのか。弟は何を守ろうとして、何を失ったのか。今まで何を捨ててきたのか。
そんな色んなことを考えさせられます。
兄も弟も智恵子も色んな惑いの中にいて、それぞれが何かをごまかしながら現実と折り合いをつけていたのが、3人が会することでまさに『ゆれる』んですね。そしてそのゆらぎはそのまま兄と弟の葛藤になっていってると思います。
一応真相と思われるものは最後に提示されますが、様々な心のゆらぎには解決が与えられないまま終わります。
曖昧なラストだから余計に色んな思いを抱かされます。
主演の香川照之とオダキリジョーの演技も秀逸。実直な人間の中にある鬱々とした思い、糸が切れてしまった危うさ。兄を好きなのに、自分は田舎のしがらみから逃れ自由に生きているはずなのに、兄から何かを奪わずにいられない思い。
面会室での2人の対峙するシーンは絶妙な緊迫感があります。
見ているこちらもここで感動した、という確たるものはないけど、なぜだか涙が溢れて止まりません。
見た後にふと思い浮かんだのは聖書の『放蕩息子』のお話。
果たして黒い羊はどちらだったんでしょう…。
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