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赤線地帯

巨匠、溝口健二の遺作となった名作です。売春禁止法前夜の吉原、「夢の里」の女達を描いた作品です。
出演者も豪華で上手い役者さんばかりです。
とにかく若尾文子、綺麗すぎでしょう~!こんなに綺麗でかわいいのに、しっかりしたたかではすっぱで小憎らしいんですよね。
あと『祇園囃子』とは全く違う雰囲気の所帯やつれした木暮実千代も凄い!なんとも言えない崩れた雰囲気、そして疲れていながらもあくまで生きることに執着する強さ、凄いです。
京マチ子の肉感的な美貌も印象的。下品であけすけな彼女が父と対峙するシーンではちゃんと彼女がかつてはきちんとした家の娘であったことを確かに感じさせて、どうしようもない怒りと苦しさを父に爆発させる所は圧巻です。
そして三益愛子の哀しさ。滑稽で陽気に振る舞う彼女が息子に拒絶されて気が狂うシーンの悲哀はなんとも言えないものがあります。
せっかく嫁に行って足を洗ったのに舞い戻ってくる町田博子の弱さ、愚かさ。沢村貞子のしまり屋でいかにも、な女将像。勢いよく「おまえたちのことを本気で考えてるのはあたしらだよ」と言って虚勢をはる進藤英太郎。怖ず怖ずと客引きを始める川上康子。印象的でアクの強い役者陣をぴったりの位置に配しての群像劇になっています。
それぞれがそれぞれの事情を抱えて濃い化粧で顔を作り夜の街に出る。それは生きるためであり、あるいは家族を守るためであり。そんな彼女達の悲哀を緻密にリアルに描き出していく溝口監督の世界。哀しいだけでなくバイタリティにも溢れ、したたかに強く生きる女の逞しさが感じられます。独特の時代の空気、猥雑さ、滑稽で逞しくてでも悲しくて。
そして売春禁止法が成立するか否か、そのことへの彼女達の不安、自分達の立っている位置の不安定さ、そういったものもしっかりとあって。
女性物を得意とした溝口監督らしさに溢れた映画。女達をリアルに冷静に描写することで浮き上がってくるそれぞれの物語。
派手ではないけれどきっちりと作りこまれた映画で、いい映画見たなぁっていう気分に浸れます。


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